21時過ぎにようやくほろ酔い加減の上司Aが帰った後、夫が「あまりにも話していることがおかしいので録音しておいたよ」と言ってきました。この夫のファインプレーが、後で非常に役立つことになりました。

 上司Aからの退職強要後、休んでいると辞めさせられてしまうかもしれないと心配になった私は無理して出勤することにしました。すると出社してすぐに今度は上司Aの上役のB本部長に呼び出され、子供の命を軽視していると説教されたのです。「自分の妻に妊娠がわかったときにはすぐに仕事を辞めさせた。それなのに君の旦那さんは一体何を考えているのか」と。大切な夫まで引き合いに出されて、とても腹立たしく、そして悔しく悲しい思いでいっぱいでした。妊娠という幸福な出来事が、こうして責め立てられ、説教され、どんどん突き落とされていくんですよね。

 その1週間後、二度目の流産をしました。病院のベッドの上で私はただただ泣くことしかできませんでした。

「妊娠は諦めろ」と言う人事部長

小酒部:会社に復帰後、程なくして担当していた仕事を一方的に下ろされ、他のプロジェクトに回されました。けれど途中でまた元の雑誌の仕事を手伝えと言われたりで、納得できなかった私は上司Aに説明を求めました。すると、いきなり耳をつんざくような大声で「お前が流産するから悪いんだろう!!」と怒鳴られました。上司Aは私を退職させられないことでB本部長から何らかのプレッシャーを受けていたようです。この言葉に私は息ができないほどのショックを受け、その後、2日間会社を休みました。

ひどい暴言ですね。

小酒部:ええ、でもマタハラはまだまだ続くんです。衝撃の言葉から2週間ちょっと経った頃、B本部長の後任のC本部長の面談を受けることになり、妊娠希望の有無と、妊娠した場合はどうするのかということを執拗に聞かれました。そして、また退職勧告が始まったのです。「自分の妻は2人目の子を設けるときに、2回流産を経験した。だから君の苦しみはわかる。引き際を考えているのか?」と。上司A、B本部長同様、自分の価値観を押しつけてくるC本部長に辟易した私は人事部長に相談することを決めました。

 人事部長なら法律を分かっているはず。そんな私の考えは大間違いでした。「妊娠と仕事の両方を取るのは欲張り」「仕事に戻って来るなら、妊娠は9割諦めろ」。人事部長にそんな風に迫られ、結局、私はその場で退職に同意させられました。

それで退職されることに?

小酒部:結果的にはそうです。でも、まずはとことん会社と闘ってからということにしました。夫が「この状況に一石投じよう」と背中を押してくれたんです。

 労働局の雇用機会均等室に相談したり、経緯報告書を作成したり、交渉に備えました。でも、会社側は最後の最後まで非を認めず、均等室もお役所仕事なのか会社に対し強く切り出すことがありませんでした。

 そこで、次の段階として「日本労働弁護団」のホットラインに電話をかけたところ、2人の弁護士が私の担当になってくれ、地方裁判所に労働審判の申立てをしました。会社からの答弁書は嘘だらけで納得できるものではありませんでした。しかし最終的には、私の要求がほぼ盛り込まれた調停案で解決することができました。2014年6月のことです。その翌月にマタハラNetを立ち上げました。(次回に続く)

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「キーパーソンに聞く」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。