教材は「ウォール街」と薄い本に絞り込む

スピーキングやヒアリングを学ぶために、具体的にどのような教材を使ったのですか。

三木:多くの教材を学ぶ時間はありません。教材は絞り込みました。まず、楽しさがなければ続かないですから、映画のビデオとその音声を録音したテープ、その映画の英文シナリオ。そして、英語で交渉する時に使うフレーズをまとめた薄い本一冊だけに教材を絞り、それらに集中しました。

 英語力がついてから参考にした教材はほかにもありますが、基本的には1本の映画と、交渉フレーズの薄い本の学習だけで、1年後にはビジネスの交渉で誰にも負けない英語力を身につけることができました。

 私の場合、外資系の投資銀行と交渉したりする機会が増えていたため、金融業界が舞台の「ウォール街」のビデオを見るとともに、ビデオの音声が録音されたテープを繰り返し聞きました。出てくる用語がまさに自分が必要とする専門用語だったので最適でした。参考になる交渉シーンも満載だったのです。

 さらに、「ウォール街」の音声を単に聞くだけではなく、フォーインという会社が出版している「スクリーンプレイ」という英語シナリオのシリーズから出ていた「ウォール街」のシナリオの英文のセリフと、耳から聞こえる音声とを一つひとつ、丁寧につけ合わせていきました。

 たまたま、私は「ウォール街」でしたが、これから同様の勉強をしたいという方なら、自分の仕事内容と近い世界の映画を教材にするのが一番よいと思います。スクリーンプレイでは、たくさんの名画の英文シナリオがラインナップされています。

スクリーンプレイの映画の英文シナリオ(対訳つき)の例。これまで約180冊が発行されている。

「シャドーイング」に集中、音声が聞こえるように

映画を見るだけで、英語が聞けるようになるわけではないのですね?

三木:漫然と映画の音声を聞くだけではダメです。音声と英文とをつけあわせて、脳内の回路をひもづけ直す作業が必要です。音声を聞いたら、正確に聞き取れたかどうかをテキスト(英文シナリオ)で確認し、すべて聞き取れていなければ再度音声を聞く。正しく聞き取れるようになるまで、この作業を粘り強く繰り返すことが重要なのです。

 例えば、「local」という英単語を日本人は「ロー・カ・ル」と発音しますが、実際にはどちらかというと「ロコ」に近い。「talk about」はリエゾンという現象により「k」と「a」が連結し、さらに最後の「t」の音は消失する。「トーカバウ」のように聞こえます。そのように、音声と単語の結びつけの回路を再構築して、一つひとつ体で覚えていく作業を継続することがとても大切です。

 音声を体で覚えるために、とりわけ、「シャドーイング(聞こえてくる音を、少し遅れて追いかけながら口に出す練習法)」を集中して行いました。コツコツとその作業を続けていると、ある日突然、一気に英語の聞き取りができるようになる「テイクオフ」という瞬間がやってきます。

 思考錯誤をしながら英語を学んで分かったのは、「シャドーイング」はスピーキングのためのトレーニングではなくて、英語の音声を聞けるようになるためのトレーニングだということでした。耳から聞き取れなかったものは口に出して再現できません。シャドーイングをすると音声に、より集中するようになります。一つひとつのフレーズごとにシャドーイングをして、聞き取れない部分があればその部分に戻る。シナリオのテキストで英文を確認したら、再度、同じフレーズの音声をシャドーイングする。その繰り返しです。シャドーイングを繰り返していくと、不思議と英語の音声が聞き取れるようになっていました。

 私は通勤時間や移動時間などに、ぶつぶつ口に出してシャドーイングをするのが常でした。トレーニングを始めるまでネイティブの話す英語がまったくわからず青ざめていた自分でさえ、たった半年ほどでビジネス英語の聞き取りにはほぼ困らないレベルになりました。「シャドーイング」は絶対におすすめです。ヒアリング力が必ずアップします。