この経費はバーレーンはもちろん、サウジも負担できるものではないでしょう。原油価格の下落がサウジの財政を苦しいものにしています 。
2015年度の赤字は3670億リヤド、2016年度2970億リヤド(約10兆5000億円)とされていますね。緊縮財政や国債発行、外貨準備の取り崩しでしのいでいます。
アラムコ上場への口先介入あり得る
サウジのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子が注目を集めています。高圧的な性格のようですが、トランプ氏の中東政策に反発することはありませんか。
保坂:副皇太子はまだ31歳と若く、毀誉褒貶の激しい人ではありますが、少なくとも反米という傾向は見られません。むしろ、米国と積極的に関わろうという姿勢を示してきました。2016年5月に訪米しています。
同氏は2030年を年限とする経済改革「ビジョン2030」を進めています。このプランは“米国製”、すなわち米シンクタンクのマッキンゼーが作成したものと揶揄されることもありますが、エンターテインメントやIT(情報技術)分野の産業を興し、脱石油を図る方針で、実行には米国をはじめとする外国の支援が不可欠です。
ムハンマド副皇太子について懸念されるのは、サウジの内部、特に王族の中で批判が高まることです。彼はイエメンへの軍事介入の責任者です。これが泥沼化し、犠牲者が増大したり、戦費が高じたりすることがあれば、「ビジョン2030」が頓挫することになりかねません。
ムハンマド副皇太子とムハンマド・ビン・ナエフ皇太子との対立が漏れ伝わってきます。「ビジョン2030」が頓挫すれば、皇太子派は喜ぶのでは?
保坂:国王が皇太子を解任して、実の息子である副皇太子を皇太子にするという噂がまことしやかに流れていますが、王室内部のことはまったくわかりません。
「ビジョン2030」については国王・皇太子・副皇太子がチームとして責任を負っています。頓挫して喜ぶのはむしろ他の王子たちではないでしょうか。
「ビジョン2030」が掲げる重要政策に一つに国営石油会社アラムコの上場があります。これにトランプ氏が口を挟むことはあり得ませんか。
保坂:あるかもしれませんね。内容は2通り考えられます。一つは、ぜひニューヨーク証券取引所に上場するよう圧力をかけること。もう一つは、ニューヨーク証券取引所への上場を求めるサウジを拒否する内容です。アラムコの財務状況は明らかにされていません。「ニューヨーク証券取引所の上場基準に合っていない」「王族に対してアラムコからどれだけのお金が回っているのか明らかにしろ」などの要求を突き付ける可能性も考えられます。
トランプ政権とサウジとの関係の展望をまとめるとどのようなものになっていくでしょう。
保坂:従来の「特殊な関係」は当面は継続すると思います。サウジは米国から大量の武器を購入しており、使用している武器の大半は米国製です。米国との関係を決定的に悪化させると、サウジはスペアー部品を調達できなくなってしまいます。一方、武器の売り先を失う米国にとっても関係を悪化させるのは得策ではない。ただし関係の振れ幅は大きくなるかもしれませんね。
当面の米・サウジ関係を見る上でのキーワードは石油、JASTA、アラムコ上場です。長期で見ると、米国は、サウジはもちろん中東への興味を失っていくでしょう。その時にサウジなど湾岸諸国はどうするか。中国やロシアへの接近はあり得ますが、その両国に米国に取って代わるだけの力はありません。
米国が中東に興味を失うのは、シェールオイルの生産が軌道に乗り、中東産の石油に依存する必要がなくなるからですか。
保坂:それもありますが、「中東に関わっているとろくなことがない」と考え始めていることも大きい。ただし、イスラエルが米国にとって死活的に重要であることは容易には変わらないでしょう。

2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任する。トランプ新政権のキーパーソンとなる人物たちの徹底解説から、トランプ氏の掲げる多様な政策の詳細分析、さらにはトランプ新大統領が日本や中国やアジア、欧州、ロシアとの関係をどのように変えようとしているのか。2人のピュリツァー賞受賞ジャーナリストによるトランプ氏の半生解明から、彼が愛した3人の女たち、5人の子供たちの素顔、語られなかった不思議な髪形の秘密まで--。2016年の米大統領選直前、連載「もしもトランプが大統領になったら(通称:もしトラ)」でトランプ新大統領の誕生をいち早く予見した日経ビジネスが、総力を挙げてトランプ新大統領を360度解剖した「トランプ解体新書」が1月16日に発売されます。ぜひ手に取ってご覧ください。
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