トランプ氏の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏はユダヤ教徒。同氏が大使館の移転に向けてトランプ氏を導く可能性もあります。彼は大統領上級顧問 という無責任に発言できる立場ですから。さらに、ネオコンに連なる人々がトランプ政権に関与するようになれば、現実味を帯びてくる。

ネオコンの論客の一人、ジョン・ボルトン元国連大使が国務長官の候補として挙げられていました。

保坂:そうですね。こうした人々が国務省や国防総省の中東担当者に配置されないか注視する必要があります。

石油と安全保障を交換する「特殊」な関係

人事に目を向けると、米エクソン・モービルでCEO(最高経営責任者)を務めたレックス・ティラーソン氏が国務長官に指名されました。石油企業トップの国務長官就任はトランプ政権の中東政策にどう影響しますか。

保坂:石油企業のトップが中東の事情を理解しているかというと、必ずしもそうではありません。我々、中東をウォッチしている者からすると、ティラーソン氏には「無理解」と映る行動がありました。例えば2011年、彼はイラクのクルド自治政府と油田開発で合意しました。当然、イラク中央政府、そして米国務省も猛反発しましたが、結局押し切ってしまいました。しかし、油田の開発は今もほとんど進んでいないと言われています。

エクソンなどの石油メジャーが米フォード・モーターや米空調大手キヤリア のように、米国での雇用を拡大するようトランプ氏から要求を突き付けられることはありませんか。

保坂:石油メジャーの元トップが国務長官として政権にいるのですから、それはないのではないでしょうか。

石油事情についてお伺いします。トランプ氏は、サウジをはじめとする湾岸諸国に対して強硬な発言をしています――ISとの戦いに地上軍を派遣するか、その戦費を融通するかしない限り、石油の輸入を停止する。例えばサウジからの石油輸入がなくなっても米国に問題は生じないのでしょうか。

保坂:米国は、その気になれば石油の自給が可能でしょう。シェールオイルを掘削する技術が進歩してきましたから。ただし、問題はあります。まず石油価格が上昇する可能性があります。米企業のビジネスに対してリーズナブルな範囲に収まるかどうかは分かりません。またシェールオイル開発は環境にかける負荷が大きい。この点をどう考えるか。なので、サウジからの石油輸入を停止するという策は得策とは思えません。

 それに何より、中東の親米国家を米国から離す方向に誘導する策は評価できるものではないでしょう。

石油の輸入停止がサウジにもたらす影響はどうでしょう。

保坂:影響は少なくありません。今でもサウジにとって米国は最大の石油輸出相手国ですし、米国にとってもサウジは最大の石油輸入相手国の一つです。サウジ・米国関係はしばしば「特殊な関係」と呼ばれます。これはサウジが石油を、米国が安全保障を相手国に提供することで相互依存になっているからです。切っても切れない関係と言っていいでしょう。

日米同盟が、基地と安全保障の交換になっているのと似ていますね。

保坂:おっしゃる通りです。したがって、サウジが米国に輸出する石油は安めの価格に設定してあり、それほど旨みがあるわけではありません。仮に米国がサウジ石油を輸入しないとなった場合、サウジが米国向けに売っていた分を市場で売却できるかというと、容易ではないでしょう。

サウジが米軍の駐留費を払う可能性はありますか。

保坂:そもそも、米軍はサウジに駐留していません。したがってバーレーンなど周辺国に駐留する米軍の経費を負担するよう求めているのだと思います。この駐留米軍が中東全体を管轄しているので。