シリアについては、トランプ政権はどう動きそうですか。

保坂:ロシアと連携して、過激派組織「イスラム国(IS)」打倒を優先することになりそうです。「IS First」ですね。アサド政権については当面の存続を認める。ロシアの案では、いずれ大統領選挙を行うことになっています。これまで米国はアサド政権の打倒とIS打倒を同時に進める方針を採ってきました。これに代えてトランプ政権は「IS First」を明確にする。

中東の大国であるサウジアラビアは、トランプ政権のそうした動きにどう対応するでしょう。サウジはアサド政権の打倒を訴えてきました 。

保坂:追随すると見ています。サウジにとって、優先順位が高いのはシリアではなくイエメンです。南で国境を接し、サウジ主導で軍事作戦を展開しています。ある程度、面子を保つことができるなら、選挙まではアサド政権の存続を容認するでしょう。

トルコは既に、アサド政権に対するロシアの方針を認める方向に転身しましたね。トルコのエルドアン大統領は面子を保つことができたのでしょうか。

保坂:外から見ると全面降伏でした。サウジの場合は、もう少しうまいやり方をするのではないでしょうか。

トランプ政権が「IS First」に舵をきると、シリアの反体制派ははしごを外されることになりますね。

保坂:和平の枠組みに反体制派をどう取り込むか、サウジやトルコのお手並み拝見というところでしょう。反体制派は基本的には妥協せざるを得ないでしょう。そうでないとテロリストと位置づけられ、すべての関係国から攻撃されることになりますから。

米・サウジ関係のカギ握るJASTAとイスラエル

シリアにおける米国の転身をサウジが認めるのならば、オバマ時代に悪化した米・サウジ関係もリセットできるものでしょうか。

保坂:そうはいきません。サウジとしては、米国がテロ支援者制裁法(JASTA)を破棄、あるいは修正しない以上、時限爆弾を抱えたままということになります。

米国内で起きたテロを支援・扇動した疑いで、米国民が外国政府を提訴できる法律ですね。9.11同時多発テロの犠牲者遺族からの圧力の下で成立したもので、サウジ政府を標的にしたものとされています。「主権免除」の原則を揺るがすものとしても注目されています。この原則の下で各国の政府は、他の国の裁判所で起こされる訴訟の対象から除外されてきました。

保坂:もう1つの課題はイスラエルです。トランプ氏は、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移すと発言しています 。過去に何人かの大統領が同様の公約をしていましたが、いずれも実現に至りませんでした。なので、今回も大丈夫だとは思うのですが、先日の記者会見を思うと不安ですね。

 エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であると同時に、イスラエルだけでなく、パレスチナも首都だと主張しています。事実上はイスラエルが1967年の第3次中東戦争以来、実効支配しているのですが 。国際社会は、イスラエルの支配を認めておらず、大使館をテルアビブに置いています 。

 仮にトランプ氏が米大使館のエルサレム移転に踏み切れば、エジプトやヨルダンといったイスラエルと国交を有するアラブ諸国がイスラエルとの断交に動く可能性があります。そうなれば、中東和平は停滞どころか、崩壊してしまいます。パレスチナ支援はアラブ諸国にとって建前にすぎないという考えかたもありますが、建前だからこそ、それぞれの国の政府の統治の正統性を担保するためにも、外せない要素です。米国による大使館移転を許せば、この正統性が崩れて政権が維持できなくなるかもしれません。

 サウジは、イスラエルが1967年の第3次中東戦争で占領した地域から撤退すれば、イスラエルと国交を持つことは可能としています。この話もないものになる。