精密業界は既にそうした壁に直面しています。デジタル化が加速してペーパーレスが進展したため、稼ぎ頭だった複合機が売れにくくなっています。

杉田:デジタル化によって、事業基盤が崩れ始めていると言っていいでしょう。だからこそ精密各社は、顧客企業の業務効率化や働き方改革を新たなビジネスにしようとしています。

 複合機の高機能化や低コスト化を競い合うだけでは、業界そのものがなくなったら太刀打ちできません。ハードウエアを通じてどんな付加価値を生み出せるのかを提案できなければ、生き残るのは難しいと思います。

コスト削減の実現手法が変わる

デジタル化は今に始まったトレンドではありません。10年前とは何が違うのでしょうか。

杉田:最大の違いは「IoT(Internet of Things)」です。センサー性能や通信回線、クラウドの分析基盤などの進化により、「つながること」に関するコストが劇的に安くなりました。そのため、様々な分野で新しいソリューションが提案できるようになったのです。

 かつて中国が市場経済に参入したときと、同様のインパクトを持っています。安価な労働力が膨大に投入されたことで様々な商品のコスト構造が一変し、多くの分野で破壊的な影響がありました。

 デジタル化が進展すると、労働コストを切り詰めるのとは別の手法で、大幅なコスト削減が可能になります。一人ひとりの労働者を教育して生産性を高めるよりむしろ、少数の人間がビッグデータ分析を駆使して業務プロセスを改善した方が効果的だ。そう考える企業が、今後相次いで出てくるでしょう。

例えばどんな分野でしょう。

杉田:既に変化が始まっているのが、コールセンター業界です。これまでは、かかってきた電話をどれだけ効率的に処理できるかが、競争を左右していました。オペレーターを教育して生産性を高め、1人当たりの処理件数を増やすことが重要でした。

 ところがAI(人工知能)が進化すると、別の観点でコストを削減できるようになります。先にAIが電話を受けて内容を分析し、人間が対応すべき案件のみをオペレーターに任せるようになるでしょう。AIを活用して業務を最適化するわけです。今後はデータ分析の巧拙がコスト構造を左右します。10年後のコールセンター業界では、ゲームのルールが一変しているはずです。

 企業の人事や経理といった業務も、AIを活用すればもう一段効率化できるでしょう。米国ではトラックの稼働率の低さが問題視されていて、効率輸送が課題になっています。シェアリングサービスの概念を活用し、空いている時間や設備を有効活用することが、新たなビジネスチャンスになると思います。