世界的な金融の中心地、ロンドンで新たな投資商品が登場した。それは、「スコッチウィスキー」。昨年9月、少数のメーカーだけでやり取りしていたウィスキーの原料取引に個人も参加できる市場が誕生した。
仕掛けたのは、個人向けに金現物取引サービスを提供するベンチャー、ブリオンボールト。仕込みから販売するまで平均で9年を要するスコッチウィスキーと金が持つ類似性に着目し、2015年9月に新会社「ウィスキー・インベスト・ダイレクト」を創業した。年間利回りは約8%と言う。
従来にない、ユニークな投資商品を生んだ同社のルーパート・パトリックCEO(最高経営責任者)に、その仕組みとインパクトを聞いた。
(聞き手は蛯谷 敏)

英クランフィールド大学で経営学修士(MBA)を取得。91年に中堅ウィスキーメーカーに入社。海外向け輸出事業を担当、7年間で輸出量を100万ポンドから1400万ポンドに拡大した。その後、英ビーム(現サントリービーム)ではコマーシャルダイレクター、新興国市場向けのマネジング・ダイレクターを歴任。英ディアジオでアフリカ市場開拓責任者を務めた後、2015年にウィスキー・インベスト・ダイレクトを創業。
本当にウィスキーが投資商品になるのですか?
パトリック:初めて私たちのサービスを耳にした方は、みなさん同じ疑問を抱かれますが、本当になるのです(笑)。全体像をご理解いただくには、このサービスが誕生した経緯をご説明するのがいいかも知れません。
私自身は、この会社を立ち上げるまで、ウィスキービジネスに20年以上身を置いてきた人間です。「ジョニー・ウォーカー」などのブランドを持つ英ディアジオ、そしてサントリーが買収した米ビーム(現ビーム サントリー)で新興国市場の開拓などを担当していました。
2年ほど前のことですが、私の30年来の親友であるポール・タスティンという人物がいるのですが、彼と一緒にゴルフをしていたんです。すると、唐突に彼がこんな話を始めたのです。
「ウィスキーはとても魅力的な投資商品になる可能性があるよ」と。
ポールは、2005年に個人向けの金取引市場を提供する「ブリオンボールト」という会社を立ち上げた起業家でした。同社は、個人の利用者から支持を集め、今では、金業界の市場開発団体で非営利組織のワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)やロスチャイルド家が主要株主のファンドが出資しています。個人の金取引プラットフォームに欠かせないサービスになっています。
ですから、決して根拠なくウィスキーを投資商品にしたいなどと言いません。
ウィスキーのどこがそんなに魅力的だったのでしょうか?
パトリック:彼が着目したのは、ウィスキーが完成するまでのプロセスでした。一般に、ウィスキーは樽に仕込んでから、商品として売れるようになるまでに、相当の年月がかかります。スコッチウィスキーは最低でも3年間が必要で、多くは更に長く、12年からそれ以上かかるものもあります。平均するとだいたい9年は寝かせておくのです。この期間が、大きなビジネスチャンスを秘めている、と、彼は繰り返し言いました。
寝かせておく期間がビジネスチャンス、ですか?
彼は、金取引サービスを立ち上げていた経験から、「スコッチの商品特性は金によく似ている」と気づいたのです。金も、基本的にはストレージ(保管しておく)ビジネスです。
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