
新年を迎え、昨年11月13日のフランス・パリのテロの衝撃も徐々に薄れつつあるように思える。一方で、いわゆる「IS」、イスラミック・ステイト(以下IS)が11月18日に彼らの機関誌に相当する「Dabiq(ダービック)」上で「すべての日本人も我々の目標である」と警告している。我々は日本国内がテロの現場になる、と覚悟を決めるべきなのか、そこまではちょっと大げさなのか。国際テロ分野の安全保障を研究している、和田大樹さんにお聞きした。
(聞き手は山中浩之)

新年早々、サウジアラビアほかスンニ派諸国がシーア派のイランと断交しました。サウジが国内のシーア派の指導者の死刑を実行し、反発したイラン市民がイランのサウジ大使館を襲ったことがきっかけですが、これがISとの戦いに与える影響はどうでしょう。
和田:まだ事態が収束していない中で、断言することはできません。しかし今回のサウジの死刑執行措置は、決してイランを挑発する目的で行ったものではなく、死刑者の多くはスンニ派の元アルカイダメンバーなどです。また、イランのロウハニ大統領も、サウジの死刑執行措置だけを非難するのではなく、テヘランのサウジ大使館が襲撃されたことに関しても非難する声明を出しています。両者とも外交的な対立が、宗派上の対立としてさらにヒートアップするのは望んではいないはずです。
指導者同士は冷静な様子だと。
和田:これを機にスンニ派とシーア派の対立が深刻化すれば、ISにとっては非常に好都合なことになるでしょう。イラクやシリアでの宗派対立を巧みに利用することでここまで拡大してきたのですからね。
さて、今、そのISのテロに対して日本が置かれている状況について、いかがお考えになりますか。
和田:まず危機管理の観点からいえば、日本のテロ警備も常に100%でやらないといけません。一方、「実際にどのくらいの確率でテロが発生するか」を考えると、これは、欧米諸国に比べれば明らかに低いです。日本国内で、フランスとかベルギーで起こっているような事件が起こるか、と言われれば、確率で比べればずっと小さい。日本国内のムスリム人口比率は非常に低く、島国であり、また日本は基本的にはイスラムと欧米の対立という構図の枠外に位置していることなどがその理由です。
ほう。
和田:確率的には低いです。しかし、ならばテロ対策をちょっとくらい緩くしても大丈夫じゃないかというと、またこれは話が違ってきます。
なぜですか。
和田:一つに、昔のテロと今のISやアルカイダのテロは、まったく質が違うからです。
私は最近のテロを、「トランスナショナルテロリズム」と呼んでいます。要するに、脱国家なんです。国家の枠を、壁を越えた、もう1つ上の立場から分析していく必要がある。昨年11月にフランスで起こった事件は、ドイツもアメリカも、そして中東の国々も、そして中国もこの問題に関しては人ごとじゃないのです。
そういう意味では決して日本も対岸の火事ではありません。例えば安倍(晋三)首相が昨年1月にイスラエルやエジプトを歴訪しましたが、これによりISは“日本はアメリカなど十字軍連合の味方で、ISとは相容れない”という彼らの活動にとっての合理的な動機を新しく得ることになり、湯川さん後藤さんの殺害後、ISは彼らの英字機関誌「ダービック」上で、日本人は世界中どこにいても標的になると宣言した。このようなISの日本に対する見方、また、近年の外国から来るのではなく、国内にいる人間が同種のイデオロギーにより過激化してテロを起こすという経緯を考えると、日本も欧米と同じように警戒していかなきゃいけないという高い蓋然性があるわけですね。これが1つの理由です。
どこの国のテロでも他人事ではない
脱国家ということは、どこの国でテロが起こっても、他人事と考えるべきではないということでしょうか?
和田:ええ。そして2つ目の理由としては、1つ目の逆の形になりますが、もし、ISによるテロが日本で起こったとしたら、これは日本国内だけでは収まりきらない問題になるのです。
これは比べるべきものではないかもしれないんですけれども、例えば環境問題では、日本だけがCO2を抑制しても、世界の問題としては解決しません。
日本が減らしたとしても、よその国がばんばん出せば、全体として問題は改善しない…
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