日高:プロジェクトマネジャーの大事な要素は、予知能力というか、先を読む力があることですよね。

井戸:この先どういうことが起きるだろうと事前にワーストシナリオまで考えて色々準備する。こういうことができるようになっていかないといけません。

 そのためにプロジェクトマネジメントの経験がある、かんぽ生命のベテラン社員を大勢、基幹系システム更改プロジェクトに投入しています。すぐそばにいる若い人たちには、先輩社員の動き方を見て、やり方、考え方を覚えてもらう。IBMからもプロジェクトマネジメントの知恵を借りています。

 とにかく若手を最優先で基幹系システム更改プロジェクトに投入して、肌で感じてもらうというところからやっていかないといけない。まだまだ足りないところもあると思いますけれど、色々なことをプロジェクトで経験していくことによって、本当のシステムの力が付いてくるのではないでしょうか。

システムの基本は人、システム作りの前に人作り

 システムの基本は人です。システム作りの前に人作りということを考えると、今回のプロジェクトを経験したエンジニアが成長してくれることを期待しています。

日高:もうかなり成長されているのではないですか。

井戸:どうでしょうか。言葉は悪いですが、痛い目を見なければ身に染みて覚えないというところがありますから。

日高:昔は失敗を通じて学ぶ、というやり方でした。

井戸:今の若い人たちはみんな、失敗できない状況に置かれている。そこはちょっとかわいそうですね。まだまだ試行錯誤はあると思いますが、今回の基幹系システム更改プロジェクトが社員の成長にどこまで寄与してくれるか、期待しています。

 今すぐ効果なんか出ないですよ、人に関しては。それはもう分かっていますから。口で言っても分からない。机の上で勉強しても駄目。実際に汗をかいて仕事をすることによって覚える、分かってくる。5年後、10年後、私がいなくなった後に、効果が出てくるのではないでしょうか。

日高:かんぽ生命とかんぽシステムソリューションズで約700人、パートナー会社3000人強という体制は今後も変わりませんか。

井戸:少し先の展望についてお話しますと、かんぽ生命のシステム部門としては、システムを極力、内製化していこうと思っています。これだけのシステムを守り、発展させていくには、幅広い業務とシステム全体を理解している人を作らないといけません。それには内製化をしっかり進めていきます。コストの抑制ということもありますし。

日高:新しいスキルを獲得し、ノウハウを残していくためには内製化に向かうことになるでしょうね。

井戸:若い人たちに例えばWatsonのような新しい技術にもっとチャレンジして欲しいということもあります(関連記事『かんぽ生命、一番難しい仕事にワトソン入れた訳』)。技術はどんどん変わるとはいえ、新しいことに取り組むノウハウを組織の力にどうやって蓄えるか、その点を考えると内製化になります。何かあるたびに、パートナー会社に頼む体質ではどこかで限界が来ます。

日高:新しいことをする企画の力が以前は弱かったということですか。

井戸:言いづらいですけれども、同業他社と比較したら弱かったでしょうね。そもそも業務とシステムの全体を把握できて初めて、企画ができるわけですから。全体を自分たちで分かっていなかったら企画なんてできません。

 システム全体を理解しているということに加え、実際に自分でシステムを作ってみた、動かしたという経験が必要です。手を動かしたことがない人に将来システムの構想なんか作れません。それを学んで、自分たちの手でやって欲しい。だから内製化したいということです。

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