日高:組織まで変えないと人は変わらないかもしれませんからね。

井戸:最後はやっぱり人です。ドキュメントを書くと覚えますよ、業務を。そういったところからスキルとかノウハウというものを社内に蓄積していく。システムの品質というのは、ビジネス部門が一緒に取り組んでくれることによって高まる。今回のシステム更改に取り組むにあたって、経営陣がその重要性を認識してくれたのは、有難かったです。

 現場の人は徐々に入れ替わります。入れ替わっても均質なサービス品質を維持するためには、会社全体で取り組み、ノウハウをしっかり残しておくことだと思います。ある会議で冗談めかして言ったのですけれど、ドキュメント作成やシステム更改が全て終わるまで人事異動は止めるぐらいの覚悟でやろうと。とにかく一回、徹底してやらないといけません。

日高:実際のシステムを開発する子会社やIT企業との関わり方はどうですか。

井戸:そこも変えています。基幹系システム更改プロジェクトをいくつかの工程に分けているわけですが、それぞれの工程について、かんぽ生命、子会社のかんぽシステムソリューションズ、今回のメインパートナーであるIBM、それから開発をお願いしているパートナー会社各社が一体になって取り組める配置にしました。そうしない限り、このプロジェクトは成功しないと思いましたので。

 今まではどうだったかというと、かんぽ生命があって、その下にかんぽシステムソリューションズがあって、さらにその下にパートナー会社がいた。ややもすると、言葉は悪いですけれど、下へ投げてしまうことがあった。「はい。これでやってください」と渡してしまう。いい意味にとれば任せていたと。それでは駄目だということで、関係する人たちをチームとして一体にしました。

システム部門と事務部門6000人が集結

<b>日高 信彦 氏</b><br />ガートナー ジャパン 代表取締役社長<br />1976年東京外語大外国語部卒業後、日本アイ・ビー・エム入社。1996年アプリケーション・システム開発部長。2001年アジア・パシフィックCRM/BIソリューション統括。2003年4月から現職。
日高 信彦 氏
ガートナー ジャパン 代表取締役社長
1976年東京外語大外国語部卒業後、日本アイ・ビー・エム入社。1996年アプリケーション・システム開発部長。2001年アジア・パシフィックCRM/BIソリューション統括。2003年4月から現職。

日高:人数はどのくらいなのですか。この大崎ビルに人を集結されたわけですよね。

井戸:ざっと申し上げると、かんぽ生命本体のシステム部門が約100人、子会社であるかんぽシステムソリューションズが約600人、合わせて約700人、そしてパートナー会社の人たちが常時、3000人強でしょうか。

 このビルには今、約6000人います。システム関連がだいたい4000人ぐらいですか。残りは事務部門。実際の支払い査定をしている人たちもいます。やりたかったのは事務部門とシステム部門を一体化すること。システム部門と子会社も一体にする。パートナー会社の方々もほぼ全員ここにいます。効率やスピードは格段に上がりました。

日高:コミュニケーションも密になりますよね。

井戸:はい。我々幹部に文句を言いたくなったら、階段を下りればすぐ言えるわけです(笑)。この体制にしてもらったことについて感謝しています。約6000人も収容できるビルはそうそうないですし。

 以前は霞が関(千代田区)にあるビルにシステム部門と事務部門が入っていて、支払い査定や契約の審査をするサービスセンターが三田(港区)にあった。子会社は青葉台(渋谷区)。パートナー会社となると、それぞれの会社にいましたから拠点にして二十数カ所、それを可能な限り、大崎に集めました。何社かまだ外で待っていただいていますが。

日高:何かあったときにも指令をすぐ発せられますね。

井戸:震災など有事のとき、事務とシステムは郵便局に対して諸連絡ができる拠点でもありますから、大きな力を発揮できると思っています。

日高:一体になって開発を進めるとしても、プロジェクトマネジメントの力や、きちんとしたシステムが出来上がってきているかどうか、目利きをする力は、かんぽ生命側で持たないといけませんよね。

井戸:その通りですが、まだまだで、これから強化していかないといけないところだと思います。プロジェクトマネジメントもそうですし、仰るとおり、かんぽシステムソリューションズの目利き力を高めることをこれまで以上にやらないといけません。

 かんぽ生命の施策をパートナー会社にきちんと伝え、実際にシステムを作るパートナー会社の仕事ぶりを品質も含めて評価し、必要があれば支援し、パートナー会社の力をさらに高めていける、そういう力がないと、子会社としての存在意義がありませんから。力不足ならパートナー会社にすべて委託してしまえばいいという話になりかねません。

 私は子会社の重要性はこれまで以上に高くなると思っています。ですから、もっともっと成長してもいたい。ただ、緒に就いたばかりというのが正直なところですね。

 プロジェクトマネジメントと言葉に出すのは簡単なのですけれど、プロジェクトマネジャーは机上の訓練では絶対に育ちません。プロジェクトを実体験して、学んだことを次の仕事に生かせるプロジェクトマネジャーをこれまで以上に多く育成する。それも今回の基幹系システム更改プロジェクトにおける大きな、そして将来に向けてのチャレンジだと思っています。

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