日高:ビジネス部門はビジネスで忙しく、情報システムのことをシステム部門に任せてしまう傾向がありますね。そこをどうしていますか。

井戸:施策オーナー制度というものがあります。色々な施策を考え、それを実現していくオーナーがどういう情報システムを作りたいのかということまで、しっかり関与する。口答ではなく、文書にしてもらって、それを基にシステムを作っていく。ご存知のとおり、こういうことをしない限り、品質のいいシステムは作れないわけですから。

日高:そこでドキュメンテーションの見直しが出てくるわけですね。

井戸:はい。それについても投資をしてもらい、全てのドキュメントを作り直しています。

日高:全てというと今回更改する基幹系だけではなく、業務を支援する他のシステムも対象ですか。

<b>井戸 潔 氏</b><br />かんぽ生命 取締役兼代表執行役副社長 <br />1978年4月 安田火災海上保険入社。2002年6月 安田火災システム開発代表取締役社長。2002年7月 損保ジャパン・システムソリューション代表取締役社長。2007年4月 損害保険ジャパン執行役員。2009年4月 損保ジャパンひまわり生命取締役常務執行役員。2010年4月 同社取締役専務執行役員。2011年10月 NKSJひまわり生命保険取締役専務執行役員。2013年6月 かんぽ生命専務執行役。2013年7月 かんぽシステムソリューションズ取締役。2016年6月から現職。
井戸 潔 氏
かんぽ生命 取締役兼代表執行役副社長
1978年4月 安田火災海上保険入社。2002年6月 安田火災システム開発代表取締役社長。2002年7月 損保ジャパン・システムソリューション代表取締役社長。2007年4月 損害保険ジャパン執行役員。2009年4月 損保ジャパンひまわり生命取締役常務執行役員。2010年4月 同社取締役専務執行役員。2011年10月 NKSJひまわり生命保険取締役専務執行役員。2013年6月 かんぽ生命専務執行役。2013年7月 かんぽシステムソリューションズ取締役。2016年6月から現職。

井戸:はい、本当に全部です。ドキュメントと言っても色々あり、業務要件定義書から基本設計書、詳細設計書、さらには一番重要なユーザーインターフェース仕様書があります。

 今回の更改を期に、文書を通じたコミュニケーションができる土壌を作ろうとしています。ビジネス部門とシステム部門との会話をきちっと義務付けて、「本当にこことここを直しますね」とお互いに確認しあって、文書に残していきます。今後、システムを改修する際にもこのやり方でいきます。

 当初は作り直す基幹系システムについてだけ文書を整備しようと思っていましたが、ここまでやるなら一挙にやろうということで、それ以外のシステムについても全部、こういう文書を整えています。

日高:すごい取り組みですね。

井戸:色々なドキュメントが必ずしも十分ではなかったということですから。しかし、ここをやりきることによって、それぞれの部署が自分の役割を認識し、システム作りに全社を挙げて取り組む態勢が作れると思うのです。

 例えば施策オーナーが「こういう施策をシステムにして欲しい」と考えたなら、一連のドキュメントを通して、システム部門とコミュニケーションしながら作っていく。最終的に施策のオーナー部門の部長ないしは役員が承認しない限り、リリースできないようにする。こういう仕組みへ持っていきたい。

システムはシステム部門だけでは作れない

日高:ビジネス部門とシステム部門、両方にとっての革命ですね。特にビジネス部門が大変ではないかと思いますが、どういう風にやってもらったのですか。

井戸:何か命令したとか、頼んだというより、そういうことが必要だ、そうしないとシステムはしっかり作れないね、という気運というか、芽が出てきていたのです。そこに今回の基幹系システムの更改がありましたから、同時にやったということですね。

 これはどこの会社でもあることだと思いますが、情報システムに関する諸々をどうしてもシステム部門が全部背負ってしまいがちです。でも、一番考えなくてはならないのは、お客さまのことですよね。さらに当社の場合、かんぽ生命が商品を提供して、日本郵便が代理店として販売する。郵便局に対しても迷惑を掛けてはいけません。

 お客さまそして郵便局のために、より良い商品、サービスを提供するシステムは誰が作るのか。システム部門だけでは絶対に作れません。こういう話を繰り返しして、ビジネス部門から「そうだね」と言ってもらえるようになっていたところだったのです。

日高:タイミングとして良かったわけですね。

井戸:非常に良かった。施策オーナー制度も元々ありましたので、それをうまく使えました。社長はその辺りを強く意識していて、情報システムの話になると「ビジネス側はどう考えている」と経営会議ではっきり聞くわけです。

日高:意見や考えを持っていないと答えられませんね。

井戸:ええ。この大きな更改プロジェクトを通じて、私はシステムの切り替え以上に、お客さまに提供する商品やサービスの部分も含めて、当社全体の意識が大きく変わっていくと考えています。

日高:見える化もできますよね。お客さまに提供する商品、それを提供する業務プロセス、それを支える情報システムまで全部、文書になるわけですから。

井戸:保険の引き受けから支払いまで一貫して見直して、しかもドキュメントにする。情報が一気通貫でどう流れていくか、そこを把握して、システム作りをしっかりやっていく。こうなると体制も変えないといけない。ビジネスの事務プロセスに合わせて、組織の見直しも合わせてやります。ややもすると組織が縦割りになっていたところもありましたから。

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