
前編:『かんぽ生命、一番難しい仕事にワトソン入れた訳』
(構成は谷島宣之=日経BPビジョナリー経営研究所研究員、中村建助=日経コンピュータ編集長)
日高:テクノロジーの変化に従って、世の中もビジネスもかなり変わっていくでしょう。新しいものを取り込み、変化に対処していくためにも、現行の情報システムそのものをしっかりした状態にしておく必要があります。これは全社、全世界共通の課題です。御社はどういう状況でしょうか。
井戸:やはり足元をしっかりさせる、すなわち生命保険業のための基幹系システムをきっちり作り上げておく。そうしておかないと、新しい変化や技術に対応できない。私はずっとこう考えてきました。
IT(情報技術)というと、AI(人工知能)やクラウドコンピューティングであったり、IoT(モノのインターネット)であったり、そういった言葉がすぐ飛び交うわけですが、それはそれとして、何と言っても自分の足元が大事でしょう。
当社の場合で言えば、被保険者数は約2400万人、保有契約(個人保険)が約3200万件、これだけの契約を管理し、守っていく基幹系システムは堅牢でなければならない。安全にお客さまの契約を保持していくために、システムはどうあるべきか、そこが出発点になります。将来の変化に備えた拡張可能性や柔軟性も求められますが、堅牢な基幹系システムがあってのことです。
状況をお話しますと、基幹系システムの更改を2017年1月に予定しています。これをきちっとやり遂げて、そこから新しい技術に適応しやすいシステム構造であったり、組織の体制見直しであったり、あるいは組織文化の変革というところにまで、つなげていこうと考えています。
日高:2万4000局の拠点があって約3200万件の保有契約を管理するシステムといったら巨大ですね。今回の更改も難しいでしょうし、日々の維持管理も難しい。
井戸:圧倒的にシステムは大きいですね。お客さまの契約を自分たちできちんと管理していることがビジネスの土台だと思っていますから、大事な仕事です。
現行システムは常に朝7時から夜10時ぐらいまで、ずっとオンラインで動かしています。オンラインを止めた後は、集計とか分析とか、別の処理が始まり、それを朝7時より前に終えないといけません。システムの複雑さとか、処理のスピードとか、要求される水準は高いのです。
システム作りのカルチャーを変える
日高:どういう考えで次の基幹系システムを設計し、構築しているのでしょうか。
井戸:システム作りのカルチャーを変えていくきっかけとする。その思いが非常に強いです。カルチャーと言っているのは、当社の人、業務そのもの、ドキュメンテーションを含むシステム開発の進め方や態勢、パートナー会社との付き合い方、といったことまで入るということです。
今回、基幹系システムで使う開発言語やコンピュータを変更します。コンピュータは長年大変お世話になったNEC製のものから、IBM製に切り替えます。それに伴い、システム開発言語をIDL2というものからCOBOLに変えます。今までの基幹系システムの規模はIDL2で1000万ステップ、NECの方によると世界最大規模だったそうです。
そうした言語や機器の切り替えは当然しっかりやるにしても、私としては全社の商品、事務、そういったところのBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)を同時に進めたいと思っています。
日高:全社の活動ということですね。
井戸:はい。システム作りは人間がやることです。しかも情報システム部門やITの専門家だけではなくて、全社員で取り組むものですから。
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