日高:どういう分野で社会貢献をお考えですか。

安部:いろいろありますけれど、一つは我々の事業に大切な原料ですね。例えばRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)による認証です。原料にパーム油を使うわけですけれど、強制労働をさせてないプランテーションでできたアブラヤシを原料にした油を使っていることを示す認証があります。そういう認証油の比率を高めていく。また、ボトル容器のほかに詰め替え用のパウチを用意しています。ボトルのまま捨てるのとパウチを捨てるのではゴミのかさが全然違いますので。

日高:なるほど。日本の経営は今、世界で見直されているところがあります。その一つは高い倫理観です。花王さんも創業者の言葉をずっと掲げていますね。

安部:「天佑は常に道を正して待つべし」(創業者長瀬富郎の遺言)ですね。身の回りをきちんとしておけば、いいことがきっと来る。花王ウェイをつくったときに、その「正道を歩む」を入れています。正道を歩むことで、大きくつまずくことがないようにする。ここが基本です。

日高:なぜ社会貢献の話を持ち出したかというと、デジタル技術とそれを使う環境がどんどん進化していくことと関係があるからです。いろいろな企業がお互いにパートナーシップを組んで、単体でするよりもより大きな価値を世の中に対して提供できるし、社会的貢献もできる。そうなると会社としてますます正道を歩まないといけないし、会社の体制も、情報システムも、オープンで外とつながりやすくしなければならなくなる。こう見ています。

安部:今、経済産業省が音頭をとってオリンピックに向けて商品情報を多言語にして出すプロジェクトが始まっています。一企業でやっていても意味がないわけで、みんなで揃えていこうということです。実際に消費者の方に多言語で提示しようとすると、我々の社内にあるデータをもう1回見直して整備しないといけない。外と組むことは社内の見直しにもなります。

ビジネスをイネーブルできるITを用意する

日高:企業の経営者にお目にかかってお話を伺っていると、先が見える方など誰もいなくて、仮説検証でやっていくしかない、という結論になります。今から2~3年先までのところを取りあえず見える化して、出てきたアイデアをアジャイルで試してみる。アイデア10個のうち、3つくらい期待できそうだとなったら、ビジネスにしていって、また検証する。それを常に繰り返していく。そんな経営になっていきますね。

 日本企業にとって難しいのは、10個取り組んで7つ失敗してもいいという姿勢をとること。リーダーがそういうふうに言ってくれないとなかなか現場は変わらないでしょう。日本企業の多くは失敗経験をマイナスと見なしますから。失敗を許容できないと仮説すら立てられません。

安部:澤田(社長)は花王の殻を破ろう、と強調しています。ただし品質管理や消費者対応、コンプライアンス遵守はこれまで通りしっかりやろうと。難しいことだが両立させようとしています。

日高:最後に伺いたいのですが、安部さんにとってCIOのミッションとは何ですか。

安部:ITの責任者はITだけ守るのではなくて、ビジネスに携わっている皆さんと関係を深くして、一緒に新しいビジネスを作ったり、業務を最適化したりする。そのためのIT、ビジネスをイネーブルできるITを用意する。それがミッションだと思っています。