安部:はい。今日は5時ぴったりに帰る、とボードに書いて、そのために一日の仕事の段取りを考えるわけです。これまでは惰性とまでは言いませんが、あまり考えずにやっていたところもあったわけで、今日は何時に帰ろうと思ってボードに書くだけでも、その後の取り組み方が違ってくるものです。

日高:いつ頃から始めたのですか。

安部:帰宅時刻を書くようになってから3年ぐらいになりますか。もともとは私たちのところで有志を募って、時間の有効活用について考えてみたのです。そのとき、帰宅時刻を書く案が出ました。

 それから会議に使う部屋のテーブルには三角札が置いてあります。これまたプリミティブな話ですが、会議の目的ははっきりしていますかとか、予定通り進んでいますかとか、次のアクションは決めましたかとか、そういうことが三角札に書いてあります。

 打ち合わせをしていると必ず、札が目に入りますから、だらだら続く会議を少しでも抑制できるのではないかと。これも我々の部署で始めて、今は全社に広がりました。自己申告も三角札もITとはまったく関係ないですが、そんなことを積み上げていくことが大事と思っています。

日高:リコーでCIOをされ、初代の政府CIOになった遠藤(紘一)さんも同じことを言っていました。小さくやってみて、うまくいったら全社に展開していくことだと。

安倍:アナログですけれどね(笑)。

日高:会議は短くなりましたか。

安部:そもそも会議の件数が適正なのか、という議論があちこちの部署で起きています。私たちのところでも連絡するだけの会議は止めました。

 またしてもプリミティブな話ですが、会議の時間帯を60分ではなく55分とか、5分短く設定する試みがあります。会議のスケジュールというと、ぴったりに入れるじゃないですか。誰かが3時~4時の会議を設定する。すると別の人が予定を見て4時~5時に次の会議を入れる。4時ぎりぎりまで会議をすると、手洗いにも行けないし、メールも確認できない。

日高:学校の授業と一緒ですね。45分とか50分とかにする。

安部:そうそう。実際には手洗いに行ったり、メールを見て急ぎの電話をかけたりするので結局、4時の会議が5分遅れで始まったりする。5分の遅れがどんどんずれて、10分、20分遅れになることもある。定刻に来た人は待たされるし、急ぎの用事がこなせなくなる。これは生産性を相当下げますよね。

 5分短縮も現場から出たアイデアなのですが、似たようなことが米国企業の幹部が書いた本のどこかに書いてありました。1時間の会議は長いといって30分に短縮したらトイレに行けなくなったので45分の会議にしたそうです。

 細かい話ばかりになって恐縮ですが、部門を横断する会議ですと誰々さんはその日大丈夫だったけれど、うちの誰々さんがだめだった、全員揃う日をようやく見つけると今度は会議室が空いていない。しかもよく調べると会議の予定がなくなったのに会議室の予約をキャンセルしていなかった、なんてことをまだやっています。ここについては会議室予約の新しいツールを入れようとしています。ようやくITの話に戻れました。

会社の体制もシステムもオープンに

日高:新しい中期計画の中で社会貢献を強調されています。今後、高齢者人口が増えてくると、やはり健康が大事ですよね。健康の中には衛生とか、人間の尊厳とか、コミュニティーとどうつながって、どう人生を謳歌していくかとか、そういうことも入るでしょう。求められることが変わってきて、花王さんが持つ製品のラインアップがさらに広がってくるのではないですか。

安部:可能性はあります。もともと石鹸から始めていますから、社会にどう貢献していくのかという思いは脈々と受け継がれていると思います。「花王人権方針」を出したり、「World’s Most Ethical Companies(世界で最も倫理的な企業)」というグローバルな選定で連続11年、選んでいただいたり。

 ステークホルダーとしては株主さんもいるので連続増配を続けています。といっても競合のP&Gさんは50数年、連続増配ですから。とにかく各ステークホルダーに還元できるように頑張っていこうというのが大きなポリシーですね。

次ページ ビジネスをイネーブルできるITを用意する