日高:需要予測と生産計画を絡めて、在庫と欠品を両方減らす取り組みは、花王さんのビジネスを考えると難しかったでしょう。気候変動の影響もあれば、流行り廃りもある。モデルを作るのは簡単ではなかったのでは。

<b>安部 真行 氏<br /></b> 花王 執行役員情報システム部門統括 1980年青山学院大学理工学部卒業後、花王石鹸(現花王)入社。2003年情報システム部門情報技術グループ部長、2010年同戦略企画部長。2013年12月情報システム部門統括(現任)。2015年3月執行役員(現任)。
安部 真行 氏
花王 執行役員情報システム部門統括 1980年青山学院大学理工学部卒業後、花王石鹸(現花王)入社。2003年情報システム部門情報技術グループ部長、2010年同戦略企画部長。2013年12月情報システム部門統括(現任)。2015年3月執行役員(現任)。

安部:苦労はあったみたいですけれども、スモールスタートから徐々に拡大していったと聞いています。仕事のやり方を変えるわけですから、現場に受け入れてもらえるような手順を踏んでいったり。多くの先輩の取り組みの結果、在庫の回転率を見ると、当初から30%以上改善できています。

日高:コストにしたら大変な改善ですよね。バランスシートを本当に変えるところまで業務改善をした企業はそうはいないでしょう。生産の途中の仕掛かりだけではなく、流通在庫も減らしたのですよね。

安部:流通在庫も減っています。ここが大きいですね。我々が販社を持ち、小売店に直接お届けしているので、モデルが多少作りやすかったかもしれません。

日高:見える化しやすかったわけですね。その後マーケティングについてもいろいろなシミュレーションモデルを展開されました。

安部:わりと最近の成果にはなりますけれども、POSデータを簡単に活用できるようになってきていて、何かアイデアがあればすぐ分析して、見えるようにできます。分析作業の生産性も上がるし、見栄えも非常にきれいなものができる。そうすると分析結果を受け入れてもらいやすくなります。

 データの分析や結果の表現のためのいろいろなソフトウエアがオープンソースという仕組みで公開されています。ややこしいところを我々が作らなくて済むようになりました。コンピューターのパワーも桁違いに向上していますから、従来だったら1日がかりの処理が今は数分、いや、数秒でできますね。

日高:仮説検証のサイクルを何回でも回せますよね。

安部:はい。技術の変化によって我々がやりやすくなっているところがあると実感します。

新しいやり方を中堅が学び、新人に教える

日高:人材についてはどうですか。いわゆるデータサイエンティストと呼ばれる人材です。

安部:データとか、ITとか、そういうものに取り組む流儀が二つある、モード1とモード2だ。ガートナーさんはこう指摘されていますね。モード1はいままでやってきたことを拡張し、効率、安全性、精度を重視する。モード2は新しいことにスピードを重視して取り組む。

 当社の場合、現状ではモード1の人材がほとんどでしょう。ざっと見て、モード2の人材は全体の5%くらいかと。しかし、向こう10年、15年を見たときには、モード2の人材がもっといないと。

 いろいろな機会を通じて育てていこうとしています。例えば、オープンソースと呼ばれる公開されているソフトを利用し、何かのデータを解析するシステムを素早く開発してもらう。そういう研修を始めています。

 まず、中堅のメンバーにいわゆるアジャイル開発のやり方を覚えてもらい、あるシステムを1回作ってもらう。次に、その中堅メンバーが先生になって、新入社員に教え、もう一度作ってもらう。最終的に本番の開発にも寄与していく、こういうやり方をここ数年やってきました。

日高:中堅の人に新しいやり方の指導を頼むのはいいアイデアですよね。

安部:勉強しないと人に教えられませんからね。

日高:教えることがまた勉強になりますものね。中堅社員の中から、新しいやり方に興味を持つ、あるいは適性がありそうな人を先生に選んでいくわけですか。

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