中国国内の保守派がだまっていないでしょうね。

川上:そうですね。ただし中国は、トランプ氏が「商売人」「ディールの人」であることを見切っており、この棍棒をカネで解決しました。1年分の対米貿易黒字額(約2600億ドル)に相当する2500億ドル超の商談をまとめ、棍棒を降ろさせました。中国はその後、北朝鮮に対する姿勢を大きく変えてはいませんし。また米国は、南シナ海での中国の行動を責めてはいません。中国からしてみれば、トランプ氏を見事にカネで買ったように思っているかもしれません。

 私は、米国と中国が北朝鮮をめぐって次のようなハードランディングのシナリオで手を握る可能性を4月くらいから指摘してきました(関連記事「米国の北朝鮮攻撃は中国の胸三寸」)。

 米国は中国の同意を得た上で、北朝鮮に対して先制攻撃を仕掛ける。対象は核施設をはじめとする軍事施設だけ。ミサイルや爆撃機による攻撃、特殊部隊の投入にとどめる。一方、中国は中朝友好協力相互援助条約に基づいて軍を派遣し、核兵器を収容する。この後には、核なき親中政権を打ち立てる。

米国が今、北朝鮮に先制攻撃をすることは国際法上、認められるのでしょうか。pre-emptive(先制)攻撃は認められるが、preventive(予防)攻撃は認められないと理解しています。先制攻撃は急迫不正*の危険がある時に行うもの。予防攻撃は、将来に起こるかもしれない危険を、事前に取り除くべく実施する攻撃ですね。

川上:今の状況ならば、pre-emptive(先制)攻撃として認められると考えます。北朝鮮は化学兵器を2500トン保有しているとされます。これをマレーシアで金正男氏を殺害するのに使用しました。11月29日に発射した火星15号は米本土を射程に収めるとされます。これで条件は十分に満たすでしょう。さらにもう一度核実験を実施すれば、「やらないほうがおかしい」状況に突入します。

北朝鮮がもう一度核実験を実施しても米国がやらなければ、シリア空爆をためらったオバマ大統領のように非難される状況になるのでしょうか。

川上:そうなると思います。

 ただし、中国が真に望んでいるのはソフトランディングだと思います。北朝鮮が米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成するのを機に話し合いを始める。ICBMが完成すれば、米国は報復を恐れて、北朝鮮に先制攻撃できなくなりますから。そして核保有国としての金正恩体制を米国に認めさせる。

日米離間を回避する核武装

川上:仮にソフトランディングが実現した場合、日本はデカップリング(日米離間)を避けるため日米同盟の範囲内での核武装を検討せざるを得なくなると思います。

え、日本が核武装ですか。

川上:核を保有する金正恩体制を認めると、米国が提供する拡大抑止*が維持できなくなる可能性があるからです。

*:いわゆる「核の傘」を指す。

 現在の拡大抑止は、次のルートで機能しています。①北朝鮮が日本のA市を攻撃 →②米国が核兵器を使用して北朝鮮・ピョンヤンに報復。報復を恐れる北朝鮮は日本を攻撃できません。

 しかし、米本土に届くICBMを北朝鮮が完成されると、このルートが次のように変化します。①北朝鮮が日本のA市を攻撃 →②米国が核兵器を使用して北朝鮮・ピョンヤンに報復 →③北朝鮮は核兵器でワシントンDCに報復。米国は日本のA市とワシントンDCを天秤にかけるわけにはいきませんから、②の報復攻撃をしなくなります。米国の拡大抑止は破れることになります。

 この時、日本が核を装備すると、①北朝鮮が日本のA市を攻撃 →②日本が核兵器を使用して北朝鮮・ピョンヤンに報復という流れになり、さらにその後ろには米国の核がついていることになるので、再び米国の拡大抑止が効くことになります。

一般的には、日本の核武装を米国が認めることはない。日本が核武装すれば、米国は日米同盟を破棄するので帳尻が合わない――とされています。

川上:そうなるとは思いません。すでに米国は欧州と核シェアリングをしています。それが日本にも適応される可能性は十分にあります。

 欧州の核シェアリングは、フランス型、NATO(北大西洋条約機構)型、英国型などがあります。仮に実現するとするならば、英国型が望ましいでしょう。

英国型とはどんなものですか。

川上:英国は米国との同盟に基づいて、米国から核兵器の技術とそれを搭載する原子力潜水艦を購入しました。自らの判断に基づいて、これらを使用することができます。日米同盟が米英同盟と同格であるならば、日本でもこの形を取り得るでしょう。

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