売上高の7割を海外で稼ぐグローバル企業になったが、世界のスポーツ市場は激変期にある。外部から積極的に人材を採用して社内体制の強化を急ぐのは、強い危機感の表れだ。後継者選定の苦悩をにじませながらも本音を語った。(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(日経ビジネス2017年10月2日号 82~85ページより転載)

(写真=菅野 勝男)
PROFILE
[おやま・もとい]1974年大阪市立大学商学部卒。日商岩井(現双日)を経て、82年にアシックス入社。趣味のバスケットボールを通じて創業者・鬼塚喜八郎氏の長女と知り合い、結婚したことが縁で転職を決めた。アシックスヨーロッパ B.V.社長兼CEO、マーケティング統括部長などを歴任し、2008年に社長就任。17年から現職。石川県出身、66歳。

アシックスに関する全てを見直す必要がある。
「プロ経営者」という言葉には違和感を覚える。

:東京五輪を控えていることもあり、日本ではスポーツ用品業界が好況だというイメージがありますが、世界に目を向けると市場環境が激変していますね。

:昨年、(米スポーツ用品店大手の)スポーツオーソリティが経営破綻したことが象徴的でした。消費者は純粋なスポーツ用品としてではなく、街でも着やすいオシャレなウエアやシューズを求めています。さらにEC(電子商取引)が急激に伸びてくる中で、スポーツ用品業界にはかつてない地殻変動が起きています。SNS(交流サイト)が当たり前の時代となり、ブランドが消費され、飽きられるスピードもどんどん速くなっています。グローバルで競争している各社は、その地殻変動への対応に追われています。

:大流行したブランドがあっという間に「ダサい」イメージに転落してしまうなど、ブランディングがより難しい時代になっているように感じます。

直営店を増やし、イメージ戦略で先行する欧米ブランドを追う(写真=菅野 勝男)

:例えば競技場で着用する分には、アシックスのマークやストライプが商品に大きく付いていても問題はなかった。でも今や、そこが要注意です。大きなマークやストライプが嫌いな人は増えていますから。そういう点で、米ナイキは本当によく考えていると思います。マークを見せたいときは商品の前面に大きく付けたり、逆に必要ないと思えばほとんど付けていません。社内では『定番だからといって、必ずしもアシックスストライプを付ける必要はない』と言っています。例えばゴルフの松山英樹選手が着用しているシューズは、ストライプをかなり小さくしました。

今まさに正念場を迎えている

:この10年間、高機能のランニングシューズを武器に、欧米市場を開拓して業績を急拡大してきました。しかし、ここ数年は踊り場を迎えているように見えます。

:為替変動の影響などを除くと、売上高は4000億円規模で3年間横ばいです。スポーツ用品業界全体が厳しいという状況もありますが、アシックスだけを見れば、やはり何かが足りない。この水準を何年も続けているということは、アシックス本体も海外の子会社も、商品も、マーケティングも、販売チャネルも全部、見直さなければいけない。2020年12月期に売上高7500億円という目標を掲げていますが、17年12月期も4000億円規模の見込みとなっており、中期計画を再検討する時期に来ています。今がまさに正念場ですね。

 会社として急激に成長したことで社員の多くが体験したことのない数字を扱うゾーンに入ってきました。だから余裕がないというか、未知の世界です。私はたまたま若いときに逆の経験をしています。日商岩井(現双日)に入社してすぐに為替の担当になり、1件10億~100億円を扱っていたのが、アシックスに入社したら1500円や2500円になって(笑)。この順番が逆だったら、なかなか予算の全体像を感覚で分からなかったでしょうね。

:積極的に中途採用しているのは、そうした成長の壁を越えるためですか。

:販売員を含めてグループ全体で社員が1万人いるんですが、核になる人間は20人ぐらいだと思います。このメンバーを徹底的に育て、ブレークスルーさせることが私の役目だと思います。私自身も中途入社ですし、社歴にこだわらず、ふさわしい能力の人間がふさわしいポジションに就けばいいという考えです。最初に手を付けたのが管理部門で、今では人事統括部長も外から来た人ですが、ここまでやるのは日本企業ではあまりないでしょうね。社内ではすでに多くの中途入社組が統括部長など要職に就いています。