ロシアのアジア重視は変わらない

畔蒜:今回の首脳会談を受けて「プーチン大統領には北方領土を引き渡す意思はない」「プーチン大統領はウソをついた」といぶかる向きもあります。でも、私はそうは思いません。ロシアは日本との平和条約の締結を本当に望んでいると見ています。その理由は、冒頭に申し上げた、中国との関係にあります。

 ロシアは2012年3月以来、東方外交を展開しています。中国を筆頭に、アジアの国々が経済を急速に成長させている。ロシアとしてもこの機会を逃すわけにはいかない。オバマ政権がアジアピボットを進めているのも同じ事情からです。2008年のリーマンショックを機に欧州経済が低迷したため、欧州経済への過度な依存に危険を感じてもいるでしょう。

 ロシアがアジアをにらんだ時に、最も重要なのは、世界第2位の経済大国で長い国境線を接する中国との関係です。貿易や投資を拡大したい。しかし、中国に過度に依存するのも危険。ゆえにロシアは日本との関係も深めたいと考えています。ロシアは歴史的に「積極的中立」の外交政策を好みます。つまり、台頭する中国との関係を一層深めていく。その一方で、日本との関係も深めることでバランスを保とうとするのです。

 「ロシアとの関係改善を提唱するドナルド・トランプ氏が米次期大統領に決まり、日本との関係を改善する必要が薄れた。それゆえプーチン大統領は対日姿勢を改めた」との見方があります。私はこの考えには与しません。ロシアにアジアシフトを促すファンダメンタルズは変っていません。

 今回の訪日で予定されていた一連の行事をすべてこなしたことが、ロシアが日本を長期的な観点から重視していることの一つの証だと思います。ロシアは今、シリア問題を巡って非常に緊張を強いられる局面にあります。プーチン大統領の元にはひっきりなしに情報がもたらされ、判断を求められる。会談に遅刻したのもシリア問題に対処するためです。今回の訪日日程を途中で切り上げてもおかしくない状況だった。それでも全日程を消化したことは、ロシアが日本との関係強化に真剣だとの証左です。

日ロ間で信頼は醸成できるのか?

今回明らかになったことの2点めに関連して、いわゆる8項目の経済協力プランに基づく各種プロジェクト実施とともに、北方4島で行なう共同経済活動をてこに信頼を醸成していくことになりました。共同経済活動でお互いの信頼を高められるものでしょうか。

畔蒜:それはやってみなければ分かりません。

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