
第2は、一定の信頼を積み上げないと先に進まないこと。プーチン大統領は世界中のロシアの専門家が毎年恒例で集まるヴァルダイ会議の場で、筆者の質問に答えて「中国との間で領土問題を解決できたのは、前例のないレベルでの協力関係を構築できたからだ」と発言しています。日本との関係を改善するにも、同様の協力関係が必要であることを示唆したものと思います。
第3は、歯舞群島と色丹島を日米安全保障条約の適用外としなければならないこと。ロシアの安全保障と直結するからです。米軍が駐留するようなことがあれば、ロシアの安全を脅かすことになります。ロシアにとって受け入れられるものではありません。
したがって、歯舞群島と色丹島が仮に引き渡されても、主権とともに引き渡されるとは限りません。日本が主権もしくは施政権を持つと、日米安全保障条約の対象になります。
プーチン大統領は同じ記者会見で「平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を引き渡すことになっている。ただし、どのように引き渡すかについては明記されていない」と発言しました。2012年3月に「引き分け」発言をした時にも同様の指摘をしています。そう考えると、同大統領の姿勢はぶれていないのです。ちなみに、今回のプーチン訪日に至る一連のプロセスの起点はこの発言に遡ります。
プーチン大統領は記者会見で安全保障に関連して「ロシアが抱く懸念を考慮してほしい」と発言していましたね。
今回の首脳会談を前に、「北方領土返還で進展があるのでは」との期待が日本国内で異様なほどに高まりました。ロシアから何かシグナルがあったのでしょうか。
プーチン大統領の「引き分け」発言に過剰な期待
畔蒜:それは分かりません。今回明らかになった三つの事実を前提にこれまでの経緯を振り返ると、ロシア側の発言は一貫しています。ロシアの外務省は「日ロ間に領土問題は存在しない。あるのは平和条約締結に関する問題だけだ」と言い続けてきました。プーチン大統領は「引き分け」と言っただけで、その内容は詰められていません。
プーチン大統領が使った「引き分け」という表現に日本側が過剰な期待を持っただけなのかもしれません。
畔蒜:そうした面はあると思います。仮に歯舞群島と色丹島が日本に引き渡されれば、主権の移動がなくとも、ロシアとしては「引き分け」と言い得るわけですから。もちろん、それは日本の立場とは相入れませんが。
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