仕事のロールプレイを通して、働くことの楽しさを子どもに伝えるエンターテインメント施設「キッザニア」。1999年にメキシコで生まれ、現在は世界19カ国で展開している。創業者であるハビエル・ロペスCEO(最高経営責任者)は、子どもだけでなく高齢者や障害者も集う仕組みを作り、企業として「良いこと」をし続ける重要性を強調する。

一方、YKKの吉田忠裕会長CEOは、ものづくりの楽しさを伝えるイベントやサッカー大会の協賛などを通して、子どもが社会で能力を発揮できる環境作りに取り組み続けている。

共に米ケロッグ経営大学院の同窓である2人が、子どもが夢や目標を持って育つためにはどうすればよいか、親や企業、社会のあり方について語る。

(まとめ:河野紀子)

YKKの吉田忠裕会長CEO(最高経営責任者、写真左)とキッザニア創業者のハビエル・ロペスCEO(写真:秋元忍)
YKKの吉田忠裕会長CEO(最高経営責任者、写真左)とキッザニア創業者のハビエル・ロペスCEO(写真:秋元忍)

吉田忠裕会長CEO(以下、吉田):キッザニアは1999年の創業。現在は世界19カ国、24カ所で運営しています。ハビエルさんはキッザニアをどのようなコンセプトで始めたのですか。

ハビエル・ロペスCEO(以下、ロペス):まさにインスピレーションでした。私がメキシコのGEでプライベートエクイティの仕事に携わっていたとき、友人から「子ども向けデイケアの分野で新しいビジネスをやりたいから、提案書を見てほしい」と頼まれたのです。内容を見て「これはうまくいかないんじゃないか」と言ったのですが、並んでいる項目の中で唯一良いと思った点がロールプレイでした。

 友人が示したこのアイデアが、キッザニアを創業するきっかけになったのです。ロールプレイは子どもが成長する良い機会になるのに、真剣に取り組んでいる企業がありませんでした。

吉田:私たちYKKは、子どもが持つ能力を実社会でどう発揮させるかを考えています。一例として、全日本少年サッカー大会を協賛しています。

 小学生の時期に、スポーツをはじめとする色々な経験をさせるのは素晴らしいことです。キッザニアは、仕事に関わるエンターテインメントを子どもたちに与えています。ビジネスとして実行したのはすごいことだと思って、関心を持っています。

YKKの吉田忠裕会長CEO(写真:秋元忍)
YKKの吉田忠裕会長CEO(写真:秋元忍)

ロペス:私たちは「子どもたちが将来なりたい職業」を、4~5年ごとに国際的に調査しています。あるとき、女子のなりたい職業に「獣医」が入りました。それまでキッザニアには獣医の仕事を学べるプログラムがなかったので、用意しなければと思いました。男子ではサッカー選手などのスポーツ選手に人気があります。スポーツから学べることは多いですよね。

吉田:子どもが学校で学ぶことは素晴らしい。ですが、それに加えて、個々人が持つ色々な興味を実際にぶつける場があるのが良いと思うのです。

ロペス:そうですね。キッザニアは設立以来、エンターテインメントとともに教育を提供する場となることをミッションに掲げてきました。子どもにとっては、楽しい場所であることが大事。一方、大人は子どもに価値ある経験を与えたいと思っていますから。

 キッザニアの教育は3つの柱から成り立っています。まず、実際に実行すること。その道のプロの経験、国際社会との関係や政府・環境のことまで、実際に子どもが関わるプログラムを通して、幅広く学べるようにしています。

 次に将来使えるスキルを教えることです。技術が発展し、パソコンは1人に1台の時代になりました。その一方で、社交性を高めたり、交渉のスキルを学ぶ機会が減少していると思います。これらのスキルを磨いていかなければなりません。

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