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クリスマスクライシスは回避したが……

首脳会談が合意に達しなかったら、どんな状況に陥っていたのでしょう。

津上:クリスマスクライシス(危機)が起きたかもしれません。

 中国が米国に輸出する全商品に25%の関税を上乗せする措置が予告通り採られたら、米ウォルマートの店舗で販売している商品の過半は1割程度値上がりするかもしれません。

 そうなったら取引先が中国から東南アジアに代わるだけとの見方もありますが、簡単に代替することはできないでしょう。まず取引のロットが巨大です。新しい取引先が児童労働や環境破壊をしていない証明も必要です。大量輸送の手段も整えなければなりません。

 加えて、英国で12月11日、ブレグジットをめぐる法案の議会採決が予定されています。これが否決され、「合意なし離脱」に陥る可能性がある。米中貿易戦争とブレグジットという二つのネガティブな影響が同時に訪れる可能性があったのです。しかし、米中首脳会談が合意に達したことで、とりあえず、クリスマスクライシスは回避されることになりました。

 ただし、合意とはいっても、しょせんは暫時の休戦にすぎません。

デカップリング目指す米国の反貿易派

90日後の展開をどう読みますか。

津上:米企業への技術移転強要の是正、知的財産権の保護、非関税障壁の是正、サイバー攻撃の停止、サービスと農業分野の市場開放といった問題をめぐって、90日間でしっかりした解決策を見出すのは到底無理でしょう。

 これらのテーマはそもそも検証が難しい。「中国の対米輸出額を〇〇億円にする」とか「米国の関税率を〇%にする」というテーマなら交渉できます。しかし、「サイバー空間での窃取をやめる」の場合、中国が何をどうすれば「やめた」ことになるのか文言を定めることができません。

 米国には反自由貿易派のように合意に至る道筋をつぶしたい勢力もいます。ロバート・ライトハイザー米USTR(通商代表部)代表などは「デカップリング」を目指していると言われます。経済面で緊密になりすぎた米中経済関係を高関税で切り離したい。したがって、中国が譲歩し米国が制裁関税を取り下げるシナリオは好ましくありません。制裁関税を恒久化したいくらいでしょう。

 したがって、90日後の結果は、良くて「休戦延長、交渉継続」がせいぜいではないでしょうか。

 一方、悪いケースを考えるに当たって、一つ注意すべきは、「90日後」は中国が予定する全国人民代表大会(全人代、中国の国会に相当)開催の直前だということです。期待を持たせた挙げ句、土壇場で談判決裂となったら、目も当てられない。

 従って中国は米国が交渉をまとめる誠意があるかどうかを早めに見極めようとするはずです。その気がないと見れば、最悪の結果を織り込んで国内にも持久戦の覚悟を早めにさせる必要があります。国民に「我々は来るべき困難に備える。中国は決して屈することはない」と訴える。米国には「やれるものならやってみろ」という姿勢を示す。

 とても楽観視できる状況ではありません。