アマゾンの存在も前提にしたビジネスも展開すると。

鈴木:当社のエンジニアはクラウドの運用管理で優れた技術を蓄積してきました。その技術を基に4月から、複数のブランドのクラウドを一括して管理できる法人向けサービスを始めています。顧客企業が当社のクラウドのほかにAWSや米マイクロソフトのサービスを使う場合、それぞれのクラウドごとに専門の運用担当者を置く必要がありましたが、我々に任せてもらえればまとめて管理できるようにしました。

IIJの創業から25年。インターネットが普及した現在をどう見ていますか。

鈴木:私が事業を始めた時は、『これは20世紀で最後の技術革新なのだ。米国に負けていられない』という思いで必死でした。大きな意味で言えば、確かにインターネットは世の中全体の仕組みを変える存在になったと思います。日本の社会も世界に少し遅れながら変わってきていますね。

 でも、大きな変革はまさにこれから起こるはずです。特に金融とIT(情報技術)をかけ合わせたフィンテックの時代がやってきています。仮想通貨も登場し、いよいよ旧来の仕組みを変えてしまうのだと思います。本当に面白いのはこれからです。

日本の金融機関は、その動きに対応できるでしょうか。

鈴木:今までは『かゆいところに手が届く』といわれる日本のIT企業に頼り切り、彼らが用意した情報システムを、ただ使っているだけでした。最近はメガバンクを筆頭に多くの金融機関がフィンテックに取り組んでいるようですが、まだ本格化には時間がかかりそうです。

 システムこそ金融の新しいビジネスモデルを生み出す最も重要な鍵になるはずですが、既存の仕組みを大きく変えるような雰囲気はないですね。経営トップがそこまで本気で考えていないのか、大量に抱えているシステム部員の雇用問題のせいなのかは分かりません。とはいえフィンテックの波は確実にやってきます。

フィンテックを技術で支える

IIJはどんな役割を果たしていくのでしょうか。

鈴木:将来、フィンテックに本気で取り組む金融機関をインターネットで培った技術力で支えていけるよう準備しています。金融機関だけではありませんよ。ヒトの健康データを集めて分析し、病気を予防する取り組みが広がれば、医療費の抑制につながるでしょう。電力会社が一般家庭の室内温度を遠隔から自動制御して環境負荷を抑える、といったことも簡単になる。サーバーやパソコンの処理能力が上がって膨大なデータをより高速に解析処理できるようになれば、もっともっと面白いことができるようになります。

 データの処理そのものは技術さえあれば難しいことではありません。問題は膨大なデータをどうやって集め、解析結果を顧客にどう届けるか。グーグルやフェイスブックに代表されるように米系のIT企業は、そうした仕組みを作るのが非常に上手でした。データを基に、それぞれの個人に合わせた広告を表示することで巨大なビジネスを生みました。

日本からはグーグルのような会社がなかなか出てきませんね。

鈴木:技術では、グローバルに通用するものはあるんです。今も思い出すのは、打倒NTTを掲げて1998年にトヨタ自動車やソニーと設立したクロスウェイブコミュニケーションズ(CWC)のことです。2003年に経営破綻して悔しい思いをしましたが、インターネット時代のインフラを作る方向性は正しかった。CWCが提供した新しい企業向けデータ通信サービスは、通信の世界に技術革新をもたらしたと自負しています。今の当社も、インターネットの運用技術ならトップクラスでしょう。

 でも結局、大きく成長したのは、広告のようなビジネスの可能性に気が付いていた会社です。当社が大化けできなかったのは、その流れをつかめなかったのが理由かもしれません。

 このままでは終わりたくありません。今からでも米国に乗り込んで新しい勝負を挑んでみたい気持ちもある。『いい年をして、また失敗するんじゃないか』と言われるか『鈴木らしいな』と思われるか。どちらかでしょうね。

傍白

 危機感の薄い郵政省(現総務省)を説き伏せ、1993年に日本企業で初めてインターネットの商用サービスを始めました。日本のネット普及が海外に遅れなかったのは鈴木さんのおかげです。面白いことに巨大なライバルだったNTTにノウハウをすぐに伝授してしまいました。目先の商売よりもネットという「文明」の開花を優先したのでしょう。

 単なる商売人とは一線を画するためか人脈は幅広く、今月の内輪だけの誕生会には経済界や官僚の大物が顔をそろえました。71歳。多くの消費者を救う格安スマホの普及にもメドをつけました。注目されるのは世界を動かす仮想通貨。日本はどういう枠組みを整えるのか。ネットの寵児の総仕上げにふさわしい仕事ではないでしょうか。