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 日経ビジネスは11月26日号で特集「哀しき年収1000万円世帯」を掲載した。会社員としての一つのステータスとも言える年収1000万円だが、この所得層が税や社会保障で大きな負担を強いられつつある。少子化が進む中では仕方がないとも言えるが、一方で「取りやすいところから取っている」との不満を持つ人がいるのも事実だ。

 不満の原因の1つとなっているのが徴税を巡る不公平。税務署が納税者の所得額を把握できる割合は、業種によって異なる。所得税が給与から天引きされる給与所得者(サラリーマン)は9割。一方、自営業者は6割、農林水産業では4割ともいわれ、「クロヨン(9・6・4)問題」として徴税を巡る不公平の象徴とされてきた。クロヨン問題が生じる背景と解決の道筋について、元国税調査官の松嶋洋税理士に話を聞いた。

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日経ビジネスRaise:[悲しき1000万円世帯]あなたの生き残り策は?

クロヨン問題はなぜ起きるのでしょうか。

松嶋:原因は大きく2つあります。1つは、圧倒的に国税のマンパワーが足りていないことです。予算削減で調査官の数は減らされています。個人宅や事業所に赴く「実地調査率」は、法人では約3%、個人では1%ほど。残りの大多数は、提出された書類をほとんど精査せずに処理しているのが現状です。

実地調査をするのはどんなケースですか?

松嶋洋(まつしま・ひろし)氏
税理士。元国税調査官で『元国税調査官が暴く 税務署の裏側』(東洋経済新報社)など著書多数

松嶋:大きく3つあります。1つ目は金融機関への内偵などで怪しい金銭の動きを発見するなど、国税内部に情報がある場合です。2つ目は申告漏れや脱税行為などの“前科”があるような場合。そして3つ目は、決算書で売上高が倍増しているのに、最終利益が1割しか増えていないといった不自然な数字の変動が認められた場合です。

対象を絞り込んだ上で、実地調査では時間をかけてじっくりと調べるということですか。

松嶋:残念ながらなかなかそうもいきません。相手が法人であっても、私の経験では、実地調査は1社当たり2日程度で終わらせるように税務署では指導されてきました。それほど人手が足りないということです。人員を増やしても、それに見合うだけの税収アップは難しいため、現場の戦力拡充は望めません。