北朝鮮もこの変化を意識しており、習氏を敵視しています。そして習政権が、金正恩委員長を追い出し金正男氏に取って代えようとしていると疑ったからこそ、正男氏を亡き者にした。

米中が協力しての軍事行動――「あり得ない」ではなくなった

津上:米中が協力し、北朝鮮を南北から挟み撃ちにする――。5年前までは、そんなことはあり得ないと言われたでしょう。しかし今は「あり得ない」では片付けられない状況に至っています。もちろん簡単なことではありませんが。

 これまで、北朝鮮から中国に難民が大量に押し寄せるから、中国は軍事行動をしないとの見方がありました。しかし、人民解放軍は、難民対策を既に考えていると思います。中朝の国境沿いに展開している15万人を北朝鮮内に派遣し、国境沿いにキャンプを作り食物や生活物資を供給することで、越境させないようにする。ドローンを飛ばし国境線の監視の目を強化するでしょう。

 また、中国は「北朝鮮という緩衝地帯を失うことを懸念して、米国とは協力しない」という見方も絶対的なものではなくなりつつあります。米国の雰囲気も変わってきています。識者の中に「中国が、緩衝地帯を失うことを恐れて北朝鮮の核・ミサイル問題に真剣に取り組まないのであれば、在韓米軍の撤退を交渉材料にすればよい」という意見が出始めました。もちろん簡単なことではありません。しかし、緩衝地帯問題を交渉の材料とすることが可能になれば、これを理由に「軍事行動はあり得ない」とすることはできません。THAADについても同様に交渉材料とすることできるでしょう。

 中朝の国境近くにある核実験場、豊渓里(プンゲリ) の扱いが米中の軍事協力を促す可能性もあります。例えば米国が単独での軍事行動を決めたとします。当然、豊渓里も叩くことになります。豊渓里には地下施設があるので、巨大な破壊力を持つバンカーバスターを使用する可能性があるでしょう。実は中国東北区の住民は豊渓里から核物質が飛来することを非常に恐れています。なので、米軍による豊渓里攻撃に強く反対する。米国は「ならば、豊渓里は中国が何とかしてくれ」と協力を持ちかけることが考えられます。

 米国とこのような協力をすることは、中国にとってリスクであると同時に大きなチャンスでもある話です。「新型大国関係」づくりを完成させられるからです。北朝鮮の核・ミサイルという世界最大のリスクを米中が協力して解決して、米国に大きな貸しを作ることができる。米国は「東アジアのことは中国の意向を尊重する」という姿勢に転じざるを得ないでしょう。在韓米軍が事実上撤退ないし大幅縮小する可能性もありますし。

 ただし、米中の協力があり得ないものでなくなっても、ネックとなる大きな問題が残っています。核・ミサイル問題を解決した後の朝鮮半島をどのような政権が統治するかです。この問題の解法が見えないと、中国はなかなか動けないと思います。

核問題解決しても、待つのは中国の勢力拡大

津上:今後の展開として最も可能性が高いのは「膠着状態」でしょう。

 先ほど指摘したように、北朝鮮は大気圏内での核実験などはできません。米国に攻撃されますから。しかし、核弾頭の数を着々と増やしていく。

 交渉も実現しない。仮に北朝鮮が交渉のテーブルに着いたとしても、北朝鮮は「核保有強国として認めよ」「在韓米軍を撤退させろ」しか言わず、進展しない。

 ただし北朝鮮が核兵器を使用したら、その時は北朝鮮が終わる。

 こんな、すっきりしない情況のまま時間が進んでいく。

膠着状態の中で北朝鮮はどのような態度を取るでしょうか。

津上:北朝鮮は「主体」思想に基づき改革開放路線を取る――と期待する向きがあります。しかし、北朝鮮がこの路線を進めるためには、国連決議に基づく制裁がネックになります。ここで、どのような交渉をするのか。「200ある核弾頭を100に減らす」という交渉はできるかもしれませんが、核兵器を放棄させることはできないでしょう。

 その一方で、北朝鮮が核兵器を拡散させることを懸念する見方もあります。北朝鮮は、大枚はたいて核兵器を開発したのだから、その投資を回収したいと考える、というわけです。

 北朝鮮が核兵器を拡散させるのをとめることは容易ではありません。今でも、中国は北朝鮮にやりたい放題やられています。麻薬、覚醒剤、偽札――。これらも、中国民衆が北朝鮮を嫌う原因になっています。

 北朝鮮が核兵器の拡散に進んだ場合、米中は“最終解決”を図るべく、密接な協力をすることになるでしょう。

 日本は核の威嚇の下で暮らしていかなくてはなりません。

 仮に中国の協力を得て、核・ミサイル問題を解決できたとしても、晴れ晴れとした世界が戻ってくるわけではありません。その時の東アジアは中国の力が大きく高まり、新型大国関係の秩序が支配する世界になるからです。日本を巡る「地政学」は塗り変わってしまう。

 米国も日本も、北朝鮮の核・ミサイル問題を今日まで放置してきたことのツケを払わなければなりません。