北朝鮮への対応はその典型例です。中国は「中国なしで米国は何もできない。だから、協力しましょう。その代わり、中国を尊重すべき」と考えているのです。

 習氏だけでなく、中国の多くの外交専門家も「新型大国関係は事実上、出来上がっている」と自信を強めています。先ほど、13億人の中国人の多くが空気を共有しているとお話しました。それと相通じる話です。

北朝鮮が先に手を出せば、中国は味方しない

北朝鮮をめぐる政策に関して、米中首脳会談から読み取れることはありますか。先ほど「米国は食い足りないと思っているかもしれない」と指摘されました。

津上:国連安保理決議を受けて、北朝鮮への原油輸出量を現状で凍結することが決まりました 。石油精製品の輸出についても、年間20万バレルとのキャップを設けた。これが長く続けば、ボディーブローのように効いてきます。

 私は、米国と中国がいま、北朝鮮に対するある認識を共有していると考えています。北朝鮮が越えてはならない一線を越えた時、米国は軍事行動に出るでしょう。中国は米国のその覚悟を認識しているし、一線を越えた北朝鮮にもう味方しない、という認識です。

越えてはならない一線とは、どういうものですか。

 グアムに向けたミサイルの発射実験や、地表での核実験などです。

 例えば朝鮮人民軍の軍司令官がこの8月、中距離弾道ミサイル4発をグアム周辺に向けて打つ計画を検討していると脅しをかけました。これに対して中国共産党のプロパガンダ紙である環球時報は社説で、「これが原因で北朝鮮が米国から攻撃を受けても、中国は中朝友好協力相互援助条約の義務を履行しない(北朝鮮に味方しない。自業自得である)」との意見を表明しました。

 また最近、米海軍で太平洋軍の司令官を務め、その後、オバマ政権で国家情報長官を務めたデニス・ブレア氏が次の意見を明らかにしました 。「北朝鮮が核弾頭を搭載したミサイルを発射し、これを太平洋上で爆発させたら、米韓両軍は大量の報復攻撃をする」。グアムやハワイに被害が及ばなくても、地下実験と地表での実験ではインパクトが違うということですね。

 どちらの例も「次のステップに進むな」と米中が口を揃えて北朝鮮に警告を発していると見ることができます。最近1カ月と少しの間、北朝鮮の挑発行為がやんでいます。これは、米国と中国が認識を共有していることを察知して、北朝鮮が「本当に攻撃されるかもしれない」と恐れ、自重しているからかもしれません。

北朝鮮は「英霊」の血であがなった地

津上:習近平政権になって、中国が北朝鮮政策を転換したのは明らかです。同氏はいい意味で、この問題に関するリビジョニストで、北朝鮮は「英霊の血であがなった地」という伝統的な考えに立っていません。

それは、どういうことですか。

津上:中国はこれまで、「なぜこれほどお人好しなのか」と思えるほどに、北朝鮮のわがままを許してきました。私はその理由が、北朝鮮が「中国人の英霊の血を捧げた地」だからだと考えています。中国は朝鮮戦争の時、義勇軍を立ち上げて北朝鮮に味方し、何十万人もの戦死者を出しました。それだけの犠牲を払った北朝鮮が、中国に仇をなす国になってしまったという話は聴くに堪えないという人が大勢いるのです。

 日本も同様の経験をしています。例えば、日露戦争で手に入れた南満州鉄道の取り扱い。日本は米国のユダヤ資本に国債を購入してもらい戦費を賄いました。この過程で、満鉄を米国資本との共同経営にするという約束をしていました。しかし戦後、「日本人の血であがなった満鉄の経営に米国が介入するのか」という批判を恐れて、けっきょく、日本はこの約束を反故にしました。第2次世界大戦につながる米国との対立はこの時に種が蒔かれたのです。

 血であがなった地に固執するのは日本に特有の現象かと思っていたら、そうではないようです。中国語にも同じ「英霊」という言葉があります。

 ただし、リビジョニストである習氏は、こうした考え方にとらわれない。トップの姿勢の変化は、中国の今後の北朝鮮政策を占う上で非常に重要だと考えます。その一つの表れとして、いま中国では、北朝鮮批判についてはメディアに言論の自由が認められています。何を書いてもかまわない情況です。