ロッテに対する中国の態度は、ある意味で中国の伝統です。第2次世界大戦前、力が弱かった時代の中国も、同様の行動に出ました。日貨排斥(ボイコット)がそれです。当時の中国民衆には、それしか抵抗の手段がなかったのです。しかし、大国となり、他国を強要(coerce)する力を持つようになった今も、過去からの惰性で同じ態度を取り続けている。

 米国が主導する体制が崩れた世界は「第一次グローバリゼーション」時代と言われる20世紀初頭と同じ様相を呈することになるかもしれません。グローバル化が進み、格差が広がった。その後の世界は、大恐慌を挟んで、ヒトラーの台頭、日独伊三国同盟、第2次世界大戦への歩みを進めました。

 新しい秩序が整っていないにもかかわらず、現在の秩序を壊すようなことはしてはならないのです。

AIIBだけ見ていても一帯一路構想は理解できない

米中首脳会談から、2期目に入った習政権の外交ドクトリンを読み取ることはできますか。

津上:今のところ、見えていません。2018年の動きを継続的に見ていくことが必要になるでしょう。

 これまで中国は、5年に1度の党大会や、年に1度の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)といった節目、節目で大きな政策を明らかにしてきました。しかし、習政権はこのサイクルにこだわらずに政策を発表しています。例えば、「一帯一路」構想はその一つです。この結果、10月の党大会は、21世紀中葉をにらんだ「夢」以外に中身のないものになりました。具体的な政策は新味のない発表済みのものが大半だったのです。

 サイクルにこだわらない方針に変わったことを割り引く必要がありますが、そうだとしても、経済でも外交でも、来年以降早めに新しい政策を打ち上げないと、政権運営に停滞感が出てきてしまうでしょう。

 一帯一路構想だけではもたないと思います。この構想は国際社会から注目を集めましたが、課題が山積しています。シルクロードの沿道には儲かる案件が数多くあるわけではありません。放漫投資をしたら、不良債権が積み上がる恐れがあります。

一帯一路構想の実行機関であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)も慎重になっているようですね。世界銀行やアジア開発銀行との協調融資が多い。

津上:AIIBについては誤解があります。一帯一路構想の中心的実行機関は、実は国家開発銀行 や中国輸出入銀行 なのです。これらの機関は、中国政府が一帯一路構想を発表する前から関係する投融資を実行してきた“横綱”です。これらに比べれば、AIIBやシルクロード基金などの新設機関は“平幕力士”にすぎません。AIIBは国際協調をうたうことで“横綱”との差別化を図ろうとしている“新顔”であり、AIIB=一帯一路構想では決してありません。

 日本はAIIBにばかり警戒の目を向けて、主役である国家開発銀行などの事業についてはノーマーク…。いつになったらこのバイアスがはずれるのでしょう。このままでは、一帯一路構想の実態を見誤りかねません。

 ちなみに、米国でも、財務省などは最近、国際協調を目指すAIIBの姿勢を理解するようになりました。このため、AIIBに加盟はしなくても、共存共栄の道を歩もうとしているようです。

「新型大国関係」は完全復活

米国との「新型大国関係」はどうなったのでしょう。今回の首脳会談に関する報道でも、この表現をみる機会はあまりありませんでした。

津上:いやいや、今回「新型大国関係」は完全復活しました。トランプ大統領との共同記者会見において、習氏はこう語りました。「主権や領土の保全についてはお互いに尊重すべき」「発展モデルに関する考え方の違いを尊重すべき(中国には中国のやり方がある)」「太平洋は米中両国を収めるのに十分な大きさがある」「米中両大国は国際社会の発展と維持に大きな責任を負っている」

 習氏が2013年にぶち上げた新型大国関係の趣旨そのままです。「米中で世界を仕切るなんて何事だ」と第三国から非難されていたので、しばらく引っ込めていましたが、完全復活させました。

これから米国に同意を求めていくのでしょうか。

津上:米国の合意がなくても、実態がそうなっているというのが中国の受け取り方です。