米国の中間選挙が終わった。米国政治に詳しい、上智大学の前嶋和弘教授は「結果は引き分け」とみる。上院の過半数を維持した共和党は「トランプ党」に変貌。下院の過半数を奪還した民主党は、「左バネ」を効かせて得票を伸ばした。
(聞き手 森 永輔)

米国の中間選挙が複雑な結果に終わりました。まだ全議席が確定していませんが、上院は与党・共和党が過半数を維持。下院は野党・民主党が過半数を奪還しました。2010年の中間選挙で共和党に多数派を奪還されて以来のことです。共和党と民主党、果たしてどちらが勝利したのでしょうか。
前嶋:私は「引き分け」とみています。共和党が勝ったとも、民主党が勝ったとも、見えますよね。

上智大学総合グローバル学部教授。専門は米国の現代政治。中でも選挙、議会、メディアを主な研究対象にし、国内政治と外交の政策形成上の影響を検証している(写真:加藤 康)
共和党にとって上院での勝利は想定の範囲内でした。改選議席35のうち26議席が民主党。民主党が過半数を得るためには35議席中28議席を取らなければなりません。これは無理な話です。
一方、共和党が下院で敗北するのも想定の範囲内だったでしょう。約40人の現職議員が出馬を取りやめ引退しました。民主党の引退議員は約20人。この差である20議席を、共和党は戦う前から失ったようなものでしたから。現職が出馬しない選挙区では、反対党の候補に一挙に風が吹きます。米議会の選挙では現職の再選率が90%程度なので、この20議席が勝敗を決しました。
これらの理由から、予想通りの選挙結果になったといえます。
共和党は、下院においてぼろ負けすることはありませんでした。トランプ大統領が「完全勝利」というのも、まるっきりの間違いとは言えません。
「トランプ的なもの」が認められた
前嶋:「引き分け」にはもう一つ別の意味もあります。今回の選挙結果が「トランプ的なもの」が認められたことを示す--と解すことができるからです。
2016年の大統領選でトランプ氏が勝利したとき、「トランプ的なもの」は、ちょっとおかしな人たちが信奉するものと考えられていました。しかし、それがかなり浸透したことが明らかになった。共和党については、トランプ大統領が乗っ取ったといっても過言ではないでしょう。トランプ氏をよすがに勝利した人がたくさんいます。
テキサス州上院選で勝ったテッド・クルーズ氏ですね。2016年の大統領選でトランプ氏と激しく対立しましたが、今回は接戦の中、トランプ氏の応援をあおぎました。
前嶋:そうですね。ほかにも、フロリダ州知事選を制したロン・デサンティス氏がいます。子供と積み木をしながら「壁を築け」と語るキャンペーン映像が印象的でした。
ジョージア州知事選を戦ったブライアン・ケンプ氏も「トランプ的」です。「移民を追い出す」と明言していました。皮肉にも激戦の相手は、初のアフリカ系女性知事になるかもしれないステイシー・エイブラムス氏です。この選挙は11月11日時点でまだ決着がついていませんが、トランプ氏の支持がなければケンプ氏の優位は大きく揺らいでいました。
こうした「トランプ的」な人が増える一方で、穏健派の議員らは引退していきました。穏健派の引退も共和党のトランプ化をうながしたといえるでしょう。
下院議長を務めたポール・ライアン氏の引退が大きな話題になりました。
前嶋:加えて、トランプ大統領と激しく対立したボブ・コーカー上院議員も引退しました。トランプ大統領が北朝鮮を挑発するのを懸念し、「トランプ大統領は『第3次世界大戦への道』に巻き込みかねない」と警告していました。
共和党は「トランプ」と「田舎」「宗教保守」の党に変貌したのです。あとは、ビジネスパーソンですね。減税政策を好感している人たち。
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