健次郎氏によれば、今回の人事は決して唐突なものではなかったことになる。健次郎氏が、息子の洋一郎氏に世襲する時が来たと確信できたからこその人事だった。

 洋一郎に(トステム会長を)やらせてまだわずか3カ月しか経っていないけど、みんなからの評価が高いんだよ。会議でも的確な意見を言うし、分析力もある。

 かつては、取締役会に私が遅刻して行っても誰も立ち上がらなかったけど、洋一郎のことは経営陣が起立して迎えるというんだよ。そして洋一郎が座ってから、皆が着席する。短い間に心をつかんだんだなと感心したね。幹部に聞いても「洋一郎会長の下で結束している」と言っている。

 背景には、健次郎氏が健康不安を抱えていたという事情もある。2006年夏に持病をこじらせるなどして体調を崩し、検査入院までしていた。この頃から、健次郎氏は取締役会を欠席するようになり、経営の第一線から姿を消した。こうした状況を受けて、取締役だった洋一郎氏が11月に住生活の会長兼CEOに就任、グループの実質的なトップに収まった。

 今回の退任劇でも、洋一郎氏が中心的な役割を果たしていたとされる。洋一郎氏は昨年12月末から今年1月にかけ、役員の65歳定年制の導入について、INAX創業家の伊奈輝三取締役らINAX側の役員にも打診するなど根回しを行っていたという。それが、取締役会に出された人事案に対して、身内からも退任の対象者からも何の異論も出なかった理由だ。

 住生活は東京証券取引所第1部に上場する企業だ。にもかかわらず、健次郎氏が世襲を公言してはばからないのは、その独自の持ち株会社観がある。

持ち株会社は単なる株主

 住生活は単なる株主なんだよ。仕事は監査と有価証券報告書の作成、大きな投資決定の3つだけ。株主がどう変わろうと、(トステムやINAXなど)事業会社からすれば関係ない。3つの仕事しかやってないんだから、誰がトップをやっても構わない。

 仮の話だけれども、洋一郎は失敗したと気づいたらすぐ辞めると思うよ。自分が(住生活の)大株主だから、株価が下がると損をしてしまう。そうなれば、これはという人を選んでくるでしょう。これが世襲のいいところだよね。

 健次郎氏の独特な持ち株会社観では、例えば相乗効果など一般的な経営統合のメリットは重要性が薄い。トステムとINAXは持ち株会社の下で経営統合してから5年を経た現在も、共同で手がける事業は限られている。2社の人事交流が活発というわけでもない。健次郎氏は、そうした議論は業績を出す結果のための方法論でしかないと言う。

 統合効果が見えないと批判する人もいるけど、方法論を議論しても仕方ない。評価できるのは業績のみ。売り上げを見ても利益を見ても、時価総額を見ても(トステムとINAXの)統合は空前の成功だったと思うよ。

 吸収合併は多いけど、こんないい会社が統合するなんて例は日本の歴史にはない。売り上げも増えたし利益も大幅に増えた。住設業界でダントツの存在になりましたから。思い残すことはないね。

 住生活の業績は、トステムとINAXが経営統合した2002年3月期の連結売上高が8335億円、同営業利益は153億円。それが2007年3月期には、連結売上高が1兆1200億円、同営業利益は550億円を見込む。売上高営業利益率は1.8%から4.9%になり、これは同業他社と比べても高い数字だ。住生活は規模と利益の両面で、名実ともに住設業界のトップ企業となった。