創業家の潮田洋一郎取締役会議長がトップに復帰したLIXILグループでは、前身の「住生活グループ」時代にも異例の社長交代劇を繰り広げた歴史を持つ。日経ビジネス編集部は2007年2月、この騒動について潮田洋一郎氏の父で前会長(当時)の健次郎氏に独占取材を行っていた。健次郎氏の発言を収めた2007年2月26日号『日経ビジネス』の記事を再録する。

 住設業界最大手、住生活グループの社長人事が波紋を呼んでいる。アルミサッシ最大手のトステムと、建材大手のINAXを傘下に置く純粋持ち株会社を舞台に、後任社長未定のままで突然社長退任が決まったためだ。6日後の臨時取締役会で後任社長が決まったものの、異例の社長交代劇の真相は藪の中。「迷走人事」とする報道が相次ぐ。

 トステムを創業し、住生活の会長を昨年11月まで務めた潮田健次郎氏。グループの実情を誰よりも知る中心的な存在だ。昨年来、体調が優れず公の場にほとんど出ない。そのキーマンが90分にわたって自らの真意を初めて語った。

住生活グループ前会長でトス テム創業者の潮田健次郎氏。 体調を崩した今も話の勢いは 衰えなかった(2003年撮影)
住生活グループ前会長でトス テム創業者の潮田健次郎氏。 体調を崩した今も話の勢いは 衰えなかった(2003年撮影)

 (人事の狙いは)世襲ですよ。住生活グループ(の役員)には年配者が非常に多いでしょう。だから息子がやりやすいように、65歳の役員定年を復活させて、若返りを図ることにしたんだ。そうすると私たち4人が65歳を超えているものだから、正式に会社を離れることにした。極めて平和でね。うまくいった。

 私が会社に残ったら口を出したくなるだろうし、社員もどっちの話を聞けばいいか分からなくなるだろうから、(6月の株主総会で)すっぱり辞める。

 2月13日、東京・新宿にある住生活の本社。この日に開かれた取締役会で、議長を務めた健次郎氏の長男、潮田洋一郎・住生活会長兼CEO(最高経営責任者)が、ある議案を提出した。それが、住生活の役員定年を65歳とし、健次郎氏ら4人の取締役が退任する人事だった。

 健次郎氏本人は欠席。事前に議案を知らされていなかった社外取締役と監査役の4人は、即座に異論を唱えた。

 「なぜ提案の時期が今なのか。株主や世間に説明がつかない」「後任社長も決まっていない。いろんな憶測を呼びますよ」──。

取締役会で全員起立

 明確な理由が示されないままの議論を最終的に打ち切ったのは、洋一郎氏の声だった。

 「創業者たっての希望でもありますから、ぜひ承認していただきたい」

 異論を唱えた取締役会のメンバーも、住生活の経営がトステム創業者である健次郎氏の意見に大きく影響されることは知っていたため、提案を追認した。その間わずか10分。こうして洋一郎氏が半ば押し切るような形で、異例の人事は短時間で承認された。

 65歳定年制は(トステムとINAXが経営統合した)5年前からの既定路線だった。統合を仕上げたら辞めて若い人に任せる。それが確信できたから2月13日に発表した。

 本当は13日にINAXの臨時取締役会を開けば、(次期社長が未定のまま社長退任が発表される)今回のような事態はなかったんだよ。しかしスケジュールが合わず、2月13日には住生活グループの取締役会しか開けなかった。その時には(次期社長は)杉野(正博)さんで内定していたんだけどね。

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