金体制が自壊する可能性

完璧な禁輸体制を敷けば、北朝鮮の人々が反金正恩で立ち上がるということですか。

べーダー:そういう可能性があるということです。

 北朝鮮の国内に、北朝鮮と周辺の国々との争いがどうなっているのか、いま何が起きているのかを知らせるのです。

 これは恒久的に続く政策ではないでしょう。どこかの時点で金委員長が自暴自棄になって交渉のテーブルに出てくるかもしれない。もしくは、北朝鮮軍の将校が金委員長を政権から排除し、核開発計画の縮小などを前提に交渉したいと申し出るかもしれません。

核開発計画は理性的ではない

 我々は北朝鮮に対する軍事行動を30年にわたって控えてきました。これは彼らが核兵器を保有しているからではありません。ソウルに受け入れがたい規模のダメージを及ぼす力を有しているからです*。この意味で北朝鮮は効果的な抑止力を持っているといえます。

*:北朝鮮は102万人の兵を擁し、その3分の2を韓国との間の38度線周辺の非武装地帯に展開している。部隊は240mm多連装ロケットや170mm自走砲などの長射程火砲を常備。ソウルは38度線から40kmほどしか離れていない

 この点を考えると、北朝鮮がなぜ自らの安全保障のために核兵器を開発しようとするのか、理解できない部分があります。既に抑止力を確立しているわけですから。それにもかかわらず、あえて、米国の軍事行動を招こうとしている。金委員長は理性的だという人がいます。しかし、安全保障のために核兵器を保有するのは理性的ではありません。生存を確かにするという彼らの意図に反する行為です。

 北朝鮮の核開発計画は金委員長が始めたわけではありません。彼は以前からあった計画に拍車をかけただけです。

北朝鮮は国際社会とのつながりを持たない

米国もしくは米国が戦後確立した秩序に対抗する意思を示した国の中で、核兵器の開発に取り組んだ、もしくはその意図があると疑われた国がいくつかあります。リビアとイランです。これらの国のケースと北朝鮮を比較すると、何か参考になるヒントが得られるのではないでしょうか。

べーダー:これら二つの事例は北朝鮮とは異なります。まずイランは非常に国際的な国です。国際貿易に依存しており、国際市場に石油を売ることが不可欠。そして、経済的に発展することに関心がある。中間層が存在し、彼らは生活をより良いものにしたいと考えている。従って、イランは国外からの圧力を受け入れる余地があるのです。それが2015年7月、核合意*に達した理由です。

*:イランと米英独仏中ロ(P5+1)が「包括的共同作業計画」に合意した 。イランは核活動を10~15年にわたって制限する。P5+1は制裁措置を段階的に解除する

 この合意は優れた取り引きです。イランの核開発を完全に解決したわけではないとして、批判する向きがあります。しかし、国際関係において、永久に続く解決策などありません。

 一方、リビアはイランや北朝鮮と異なり、他の国にダメージを与えるほどの能力を保有していませんでした。核開発計画はあったが、核兵器の保有には至らなかった。そして国際社会に復帰し、そこで尊敬される地位を得ることと見返りに、核開発計画を放棄したのです。

 すべての人がカダフィ大佐を嫌悪し見下していた。誰も彼を信じませんでした。それゆえ、リビアの国民が立ち上がり、武器を取って反抗すると、彼にはなすすべがなかったのです。

 国際社会が彼を支援することもあり得ない環境だった。それゆえ、米国はもちろんのこと、フランスやイタリア、英国、果てはアラブ連盟*に加盟する国々まで反体制派を支援すると表明しました。

*:アラブの7カ国が1945年に結成した。相互の独立と主権を認めることが目的。当初の加盟国はイエメン、イラク、エジプト、サウジアラビア、シリア、ヨルダン、レバノン

 北朝鮮はイランと異なり国際社会に依存するところがありません。またリビアと異なり、反体制派が活動しているわけではありません。できれば将来、そうなってほしいですが。

イランとの核合意破棄は北朝鮮に誤ったメッセージ

トランプ大統領がイランとの合意を破棄すると発言しています。これは懸念すべき事態です。北朝鮮が誤解しかねません。

べーダー:その通りです。北朝鮮に「いかなる合意も価値がない」と思わせてしまう可能性があります。