副業元年と言われていますが、それでも解禁に慎重な対応の企業が多いですね。

西村氏:副業解禁の「3大リスク」と言われているものがあります。過重労働につながるという懸念、情報が漏れるのではないかという恐れ、本業に支障をきたすのではないかという不安――の3つです。結論から言えば、いずれも「完全なる思い込み幻想」です。先日、ソフトバンクの人事担当者と話す機会がありましたが、副業解禁して1年でこういったことは起きていないということです。

 まず長時間労働を助長するのではないかという点ですが、ルールを明確にすることで防ぐことができます。睡眠時間を削るような働きすぎは良くない。こう前提を定めた上で、1週間当たりで副業に充てる時間をきちんと申告し、明らかに支障をきたしている場合には、上司が副業のストップを命じることができると定める。これで十分に防止可能です。

 情報漏洩については、副業を解禁するかしないかという議論とそもそも切り分けて考えるべきです。ビジネスパーソンの最低限のマナーとして、会社の機密情報を外で喋っては駄目だということを周知徹底し、明るみになった場合にはきちんと処罰する。これに尽きます。副業が気になって本業が気もそぞろになるんじゃないかという指摘も「的外れ」です。解禁した結果、やる気が高まって本業の成果が上がっているという事例はたくさんあります。理屈としては考えられなくもないですが、現実に起きていることとは逆でしょう。

(写真=村田 和聡)

西村さんは副業ではなく「複業」という言葉を使っていますね。

西村氏:副業というと、副収入を想起させがちです。そうしたイメージを刷新したいのです。時間の割き方にはメインとサブがありますが、精神的な位置づけとしては車の両輪で、どちらがメインかサブかじゃないんです。私自身のことを言うと、リクルートキャリア時代は週5日勤務の正社員でしたが、現在は週2~3日働く正社員です。現在は時間の配分も半々なんです。こういう働き方は水面下で増えつつあって、良い選択肢じゃないかと思っています。会社員の固定収入を一気にゼロにしてフリーランスになるのはハードルが高い。かといって週5日働きながらの隙間時間では限界がありますから。企業側も業務委託ではなく一社員として専門家の力を短時間借りることができるようになる。いよいよもって、メイン・サブといった境がなくなっていくわけです。

副業が養う「忖度しない力」

個人が副業を始める上で必要な心構えはなんでしょうか。

西村氏:「簡単に稼ぐことはできない」ということです。稼げるようになる、つまり世の中からプロとして認められるまでにはアマチュアのフェーズがあります。時給換算したら決して高くない金額、場合によっては無償で挑戦する必要性が出てきます。お金を稼ぐのは結果であって目的ではありません。サラリーマンの9割近くが副業に関心があるという調査結果もありますが、そもそもなぜやりたいのか答えが出ていない人も多い。誰にどんな価値を提供したいのか、できるのかを考える必要があります。

 本業で十分なスキルを身につけている人は、それを切り出して副業にすればいい。本業とは全然関係のない趣味を副業にするやり方もあります。自分のできること、やりたいことを整理・言語化すれば何かしら人前で提供できるものはあります。本当に見つからない場合は、いま世の中でどんなスキルを持った人材が求められているのかを見定めて、ちゃんを身につけるところから始めてみたら良いと思います。

改めて個人が副業するメリットはどこにありますか。

西村氏:社内にないスキルを身につけたり、知識を得たりできるというのはもちろんですが、自分の価値観にひもづくかけがえのない仲間ができる、というのも大きいメリットです。社内では同僚であっても価値観が違うということはありますが、副業を通じたコミュニティは価値観や信条を同じくするものです。「忖度しない力」が身につくというのもあります。会社の外でも通用するんだという自信、お前なら大丈夫と言ってくれる人脈ができることで、会社にすがらないようになります。社内政治力を否定はしませんが、忖度する力ばかり身につけてしまうと 本来は顧客やマーケットに向き合う時間を社内に向けるようになり、本末転倒です。