トランプ政権は2月に「核態勢の見直し(NPR)」を発表して、オバマ時代の核戦略を転換。「通常兵器による攻撃や大規模なサイバー攻撃を受けた場合の報復にも核使用を排除しない」としました。この新方針を実行に移すことになるわけですね。

川上:はい、そうなります。トランプ政権がこのような軍拡競争に向かうのは、かつてのネオコンが政権内で力を増していることが原因かもしれません。ネオコンは米国の防衛産業と密接な関係を築いています。ボルトン大統領補佐官はネオコンの一人です。イラク戦争の時には、米国内の世論工作に従事しました。

 ネオコンが発言力を増し軍備増強の方向に進むと、米国の軍事産業の雇用が拡大します。この意味では、トランプ大統領の政策は一貫性があるのかもしれません。

 ただし、中国はイラクやアフガニスタンとは比べ物にならないほど強大な国です。米国のネオコン勢力が中国を敵視し、防衛産業の利益を図る動きを強めるとしたら、日本がどこまでそれに付き合うかは難しい問題です。

北朝鮮による日米離間を阻止する

 この提案は、日本にとっては望ましい面もあります。北朝鮮による日米離間策を排除できるからです。核を巡る交渉を進める中で米国は、北朝鮮によるICBM(大陸間弾道ミサイル)保有を許すことはないものの、核兵器の事実上の保有を認めてしまう可能性があります。米本土に核の脅威が及ばないからです。

 この時、北朝鮮に中距離弾道ミサイルが残れば、日本に対する核の脅威はなくなりません。これは日本にとって最悪のシナリオです。特に、米国が北朝鮮と、北の核廃棄を曖昧にしたまま和解した場合、米国による核抑止が日本に効かなくなるというデカップリングが起こる可能性があります。

 ただし、米国が、北朝鮮を射程に収める中距離核戦力を日本に配備すれば、北朝鮮による日本への核攻撃を抑止することができます。

 もちろん、これは非核三原則の第3の原則「持ち込ませない」の見直しを伴います。国民の理解を得るのは容易ではないでしょう。

現在も、核兵器を搭載する米国の潜水艦が日本への核の傘を提供しているといわれています。

川上:米国はどこに核兵器を配備しているかに言及しない方針です。核搭載潜水艦は西太平洋にいるかもしれませんが、いないかもしれません。これに対して、日本の陸上に配備すれば、北朝鮮や中国に対して抑止力を明示的に示すことができます。

米国が日本を含む東アジアに中距離核戦力を配備すると、北朝鮮に核の廃棄を求めづらくなるのではありませんか。

川上:期待するのは、米国と北朝鮮に、中国とロシアを加えた4カ国で核兵器の軍備管理と軍縮が進むことです。

 軍備管理には軍備を減らすことだけでなく、増やすことも含みます。米国が日本に中距離核戦力を配備することで、まず、東アジアにおける中距離核戦力レベルでの北朝鮮の核と米国の核のバランスをイーブンにすることができます。現在は北朝鮮に有利な状態にある。イーブンにしたうえで、核軍縮を進めるのです。その時には、ロシアと中国も呼んで4カ国で進める。

 バラク・オバマ大統領(当時)が「核なき世界」を提唱していた時、実は、こうした経過で進める核軍縮を狙っていたのだと思います。オバマ政権下でも、使用不可になった核弾頭を整備して使用可能にする措置を進めていましたから。

次ページ 冷戦の最前線に置かれたドイツとこれからの日本の類似点