ロシアの方がINF廃棄条約の順守に消極的だった

米国は、ロシアが同条約に違反していることを破棄の理由に挙げています。違反は何を指すのですか。

川上:ロシアが地上発射型巡航ミサイル「SSC8」を実戦配備したことです。米国は2014年7月に、これの実験がINF廃棄条約違反であると指摘。2017年3月にはトランプ政権が実戦配備を公式に批判しました。これが欧米にとって脅威になっているのです。

ロシアが核兵器に依存する傾向が前から目につきます。ロシアが2014年にクリミアに侵攻した際、欧米諸国による制裁強化に対抗する手段として短距離核ミサイルを配備する強硬論がロシア内で浮上しました。この時、イワノフ大統領府長官(当時)らはINF廃棄条約から離脱し、中距離核戦力を強化するよう主張した。

川上:さらにさかのぼって2007年、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が米ロの2+2(外務防衛閣僚会議)の場で、INF廃棄条約から脱退する可能性を示したことがあります。中距離ミサイルを保有する国が米ロ以外に拡大したことが理由でした。中国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、北朝鮮、韓国、パキスタン、サウジアラビア、シリア、イエメン――。米ロだけが条約を守ってもしかたがない環境が訪れたという認識です。

 こうした経緯を経て、ロシアはSSC8の配備に取り組みました。

振り返ると、ロシアの方がINF廃棄条約の遵守に消極的だったのですね。中距離核戦力への依存度を高めてきた。

川上:ロシアにはロシアの事情があったと思います。冷戦終了後、EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)が旧東欧諸国やバルト3国にまで勢力を拡大。ロシアは、かつて優勢を維持していた通常兵器による兵力も劣勢に陥った。西側のようにミサイル防衛システムを開発しようにも予算と技術が足りない。中距離核戦力で補うしかなかったのです。さらにロシアが配備したINFは米本土には直接届かないものであるという、いわゆるグレーゾーンにあるとの認識もあったのでしょう。

日本にも中距離核戦力を配備?

今後の展開をどう読みますか。

川上:核兵器の軍拡競争が始まる公算が大です。米国は欧州にSSC8に対抗する地上配備型の中距離核戦力を配備するでしょう。これはNATO諸国を米側につなぎとめる効果を持ちます。

 トランプ大統領はINF廃棄条約の破棄に言及しただけで、ロシアに通告したわけではありません。まだ脅しの段階です。したがって、ロシアがSSC8の配備を取りやめる可能性も残ります。でも、その可能性は決して大きくはないでしょう。

 ロシアは西側が配備を進めるミサイル防衛システムを強く懸念しており、これに対抗する手段を確保しておきたい。日本も導入を決めたイージス・アショアについて「(その気になれば)核弾頭を積んだトマホークを装備できるのでINF廃棄条約違反」と主張しています。

 米国は、在日米軍基地にも中距離核を配備できるよう日本に求める可能性が浮上するでしょう。先ほど申し上げたように、中国のA2ADに対抗するためです。中国が配備する中距離弾道ミサイルは、日本国内にある米軍基地のほとんどを射程に収めています。もし、これらを発射したら米国は核兵器で報復する、と示すことで抑止が可能になります。

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