イラクは宗派対立が続く
ラッカが陥落したので注意がシリアに向かいがちですが、ISの事実上の崩壊はイラクにとっても大きな進展です。
保坂:はい。でも、イラクの情況は大きくは変わらないと思います。この1年の間に、ISはだいぶ弱体化してきましたから。ただしISは広い地域を統治する力は失っても、西部のシリアとの国境にまだ勢力を残しています。テロを実行する力もまだまだあります。
アバディ政権は安定しているのでしょうか。
保坂:キルクークの油田をクルド自治政府から10月17日に奪還し 、国内の評価は高まっています 。しかし、シーア派とスンニ派の対立を解消するのは難しいでしょう。
イラクにISが浸透したのは、シーア派主体のマリキ前政権がスンニ派勢力を冷遇したことが大きかったですね。
保坂:はい。当時に比べて、対立は緩和する方向に向かっていると思います。スンニ派はISのような勢力に与するのが得策ではないことに気付きました(編集部注:ISはスンニ派の組織。その支配地域は、スンニ派住民が主体の地域から拡大した)。シーア派を主体とする政権側もスンニ派との融和が必要なことを学習したと思います。そのためアバディ政権が誕生しました。
しかし、アバディ政権もしょせんシーア派政権です。シーア派を優遇する構図は代わらない。特に、人民動員部隊の処遇問題を解決できるかどうかは分かりません。
人民動員部隊ですか。
保坂:シーア派の民兵組織です。イラクのシーア派系組織やイランが支援しているといわれています。IS掃討戦で大きな力になりました。スンニ派勢力はこの人民動員部隊が発言力を増し、スンニ派住民が暮らす地域に干渉することを恐れています。イラク政府がこの部隊をコントロール下に置くことができれば問題ありません。しかし現在は政党や有力者に属す存在になっており、政府の統制が効かない状態です。
ISはすぐになくなるわけではない
ISは今後、どのようになるでしょう。
保坂:ラッカ陥落は、大きな一歩だと思います。重要拠点を失えば、今後、人が集まらなくなりなり、じり貧になる。シリアとイラクで活動する外国人は減っていくでしょう。まだ小さな拠点がいくつか残っていますが、これらが再び拡大するのも容易ではない。資金、それを得るための油田を確保するのは困難です。
しかし、活動の拠点を海外に移すことは考えられます。
どんな国が候補ですか。
保坂:アジアではフィリピンにIS東アジアがあります。1年前までは「ISフィリピン」と名乗っていましたが、勢力を拡大し、今は「IS東アジア」と称するようになりました。メンバーとしてフィリピン人はもちろん、マレーシア人、シンガポール人、インドネシア人などが参加しています。
ただIS東アジアの幹部2人が殺害されたとの報道が10月16日にありました 。これが事実なら、IS東アジアにとって大きな打撃でしょう。
ISはアフリカではリビアに大きな拠点を有しています。彼らは、しばらく大人しくしていましたが、勢いを取り戻しつつあります。ここに来て、外国人が集まり始めている 。「油田を狙え」などの宣伝にも力を入れています。
このほかでは、アフガニスタンとシナイ半島でしょうか。シリアやイラクと同様、中央政府が弱体化している地域が、過激派組織にとって居心地の良い場所となります。この意味では、イエメンやソマリアも候補になるでしょう。
フィリピンやリビアのISは、シリアのISの支店のようなものですか。
保坂:いえ、元々は独立したテロ組織でした。ISが台頭するのを受けて、ISに忠誠を誓うようになりました。
Powered by リゾーム?