3000万とも言われるクルド人が国を持たず、複数の国に分かれて暮らすのは不自然です。擬似的な国家になるのか、連邦制において一角を占めるのか、その形態は分かりませんが、クルド人による国家をいずれは認めざるを得なくなるでしょう。ただ、それが「今」なのかどうかは分かりません。イラクでの住民投票の今後の展開を含めて、当面はクルド人が“主役”となり、サイクス・ピコ体制に挑戦する動きが中東における波乱のタネであり続けると思います。

ラッカの統治をめぐる争い

第一次世界大戦を受けてオスマン帝国が崩壊。クルド人が住んでいた地域は、現在のトルコ、シリア、イラクになりました。クルド人はイランにも住んでいますね。こうした情況の中で、具体的にはどのような摩擦が起こり得るでしょうか。

保坂:大きく二つのことが想定されます。一つは、「ラッカを解放した」と表明 したシリア民主軍とその上部組織であるクルド民主統一党(PYD)の動向です。シリアに住むクルド人を中心とするこの部隊は、ISを掃討するための地上戦を担い、米国の覚えがめでたい。論功行賞として、制圧したラッカの統治権を主張する可能性があります。

 これはトルコ政府にとって面白い事態ではありません。トルコ政府は、トルコに住むクルド人の中核となっている「クルド労働者党(PKK)」 を合法組織として認めず、テロ集団と見なして非常に強く警戒しています。そしてトルコはこのPKKとPYDを同一視しています。したがって、PYDがラッカという拠点を手にすることになれば、トルコ政府は脅威と感じるでしょう。トルコ政府からみれば、PYDはPKKと同じく危険な存在です。

 もう一つ想定されるのは、イラクにおいて、クルド自治政府が独立に向けた具体的な動きを強めることです。

 クルド自治政府は10月17日、キルクークの油田をイラク政府に奪われました 。このため、同自治政府の指導者バルザニの責任を問う声も高まっており、クルド内部の対立も予想されます。しかし、いずれにせよクルド独立への気運が高まることはトルコ政府にとって好ましくない事態です。クルド人国家の樹立を掲げる PKKを刺激することは必定ですから。クルド自治政府で主流をなすクルド民主党(KDP) はこれまでトルコ政府と良好な関係にありました。しかし、住民投票を強行したことで関係が悪化しています。

 どちらの事態も、トルコ政府は実力を持って圧力をかけ、阻止することが考えられます。

アサド政権は存続し三つ巴に

シリアの内戦はどのような展開になるでしょう。

保坂:アサド政権と反政府武装組織、そして、それらと一線を画すPYDの三つ巴、あるいはISやシャーム解放委員会(旧ヌスラ戦線)などテロ組織を含めると四つ巴の状態が続くと思います。アサド政権は首都ダマスカスと地中海沿岸を抑えている。PYDなどクルド勢力は北部を事実上掌握。反政府武装組織はその他の地域――と棲み分ける。

 アサド政権が存続する可能性はひと頃に比べて高まっていると思います。IS掃討戦を通じて、ロシアが軍事支援するようになりましたから。米国にとっても、アサド政権打倒は優先順位が高くありません。その旗をまだ降ろしてはいませんが。

 サウジアラビアも、ロシアが主導するシリア和平のロードマップを承認しており、「アサド政権が存続しても仕方ない」と考えているでしょう。サウジのサルマン国王が10月10日ロシアを訪問し、プーチン大統領と会談しました 。当然、シリアの今後について話し合ったと思います。

シリア民主軍の後ろには米国がついていますね。

保坂:反政府武装組織にも、支援する国がそれぞれの組織にいます。例えばムスリム同胞団はカタールが支援しているとされています 。また、サウジアラビアは世俗的な勢力から宗教的な組織まで幅広く支援しています。