昨年10月、全日本空輸(ANA)マーケティング計画部インバウンドツーリズム推進チームと、グループ会社のANAセールス販売計画部販売促進課が会社の枠を超えて統合し、ANA「観光アクション部」が発足しました。このタイミングで設立した背景と、その役割を教えてください。
藤崎良一・マーケティング室観光アクション部部長(以下、藤崎氏):政府は訪日外国人客数を2020年に4000万人まで増やすことを目標にしています。訪日客を取り込めるかどうかはANAグループにとっても重要な問題です。少子高齢化が進む日本では何も対策を打たなければ、国内線の現状維持は難しいと感じています。だからこそ地域の魅力を高めて訪日客に訪れてもらうことが大切なのです。そのような流れの中、ANAグループの観光事業戦略の中心を担う組織として観光アクション部を発足させました。
部内には「観光の窓口チーム」と「観光振興チーム」があります。観光の窓口チームは、観光庁や日本政府観光局(JNTO)、他社などと連携して、観光に関する企画を立案・実施したり、 20年以降の中長期的な観光事業戦略を描く役割を果たしています。観光振興チームは、主に自治体とともに地方創生事業を展開しています。インバウンド関連の仕事には、観光アクション部発足当初は観光の窓口チームがあたっていましたが、今は観光振興チームが担当しています。インバウンドと地域創生の相乗効果が狙えるためです。
藤崎良一マーケティング室観光アクション部部長。写真はドイツのハイデルベルグ城近くで撮影。地域の食を楽しみながら巡る「ガストロノミーウォーキング」の本場、アルザス地方のウォーキングに参加・視察した帰りに立ち寄った
観光アクション部ができたことで、どのような変化がありましたか。
藤崎氏:以前は、観光に関わる部署がグループ内に散在していました。インバウンドと地域創生が分かれていてバラバラな印象もあったのです。そのうちの2つの部署を統合し観光アクション部という窓口ができたことで、企業や自治体などからすると「ANAのどこと話をすればよいのか」が分かりやすくなり、協業しやすくなったと思います。
グループの中には現在もなお、観光を担う部署が複数ありますが、観光アクション部がハブとなって、案件ごとに最適な部署に仕事を割り当てています。観光アクション部は社外の組織と社内の組織をつなぐ役割も果たしているのです。
具体的な成果はありますか。
藤崎氏:先週発表しましたが、JNTOなどと連携して、英国旅行業協会の年次会議を、東京に誘致することに成功しました。以前は主に欧州域内で開催されており、アジアでは初の開催となります。画期的なことだと思っています。会議は19年10月の3日間にわたって開催される予定で、協会に加盟する旅行会社の幹部など約500人が参加する予定です。これは、やはり観光アクション部という1つの部署ができたことによる成果だと思います。
誘致を始めたきっかけは、当社のロンドン支店からの提案です。日本では、長期滞在が見込める欧米からの観光客を増やそうという流れがありますが、それに合う案件としてロンドン支店から提案されました。19年にはラグビーのワールドカップが日本で開催される予定で、航空座席やホテルを確保することは大変だと思いましたが、一方で誘致が成功する可能性も上がるだろうと思い、取り組みました。
正直、ヨーロッパの人にとって、日本は一生に一度行くかどうかの国です。だからこそ、19年のラグビーワールドカップと20年の東京オリンピック・パラリンピック後の観光戦略を描くうえで、彼らをどれだけ取り込めるかは重要です。その意味でも、ヨーロッパを代表する旅行関係者に来日してもらうことは大きな意味があると思います。
JNTOなどと連携する一方、自治体とも地域創生において協業しています。
藤崎氏:ANA機内でのPRや、国内線のネットワークなどANAグループが自治体に提供できるものは多いです。また、グループの社員を実際に地域に派遣して、その地に入り地方創生をサポートすることもあります。熊本県天草市にも派遣しました。天草産品の新たな取引先開拓や旅行商品の開発など様々な成果を得ています。
ANA総合研究所が他企業と連携して開催している「ONSEN・ガストロノミーウォーキング」というイベントもあります。ガストロノミーツーリズムとは欧米では普及している旅のスタイルで、その土地ならではの食べ物を楽しみながら、文化や歴史を知る旅のことです。それに温泉を加えたのがONSEN・ガストロノミーウォーキングです。2017年度は全国17カ所で実施し、参加者は3000人にのぼりました。今年度は26カ所で開催予定です。
ANAの支社・支店と地域とのかかわり方も変わってきました。
というと。
ANAの支社・支店は地域の旅行代理店への航空券の販売も重要なミッションなのですが、今はオンライン化が進み旅行代理店の数が減っています。「航空券」というANAと地域をつなぐパイプが細くなっているのです。
ですが、もう1本のパイプができつつあります。それがまさに「観光」です。ANAと地域が協力し、どうやったら地域に観光客を呼び込めるかを一緒に考えています。以前よりも地域に密着し、自治体との関係を深めています。
観光アクション部が発足して約1年。成果もありますが、今後の課題と感じていることは何でしょうか。
藤崎氏:観光アクション部はマーケティング室にありますので、売り上げを伸ばすのが至上命題です。国内線の売り上げを海外で伸ばしたいと思います。
海外で日本の国内線を販売するのは難しいことだと思いますが。
藤崎氏:難しいです。でも今後は力を入れなければと思っています。目標値も作りたいです。国際線に比べると国内線の搭乗率は低く、昼間の時間帯はまだ空いています。その時間帯に、外国人観光客に乗ってもらいたいと思っています。
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