解決法は養殖しかない

不漁の影響で、スーパーなどでは魚の価格が上がっています。もう魚が安かった時代は2度と来ないのでしょうか。

有路:天然魚の価格は今後さらに上がっていくでしょう。この問題を解決する唯一の方法は、養殖しかありません。世界の養殖供給量はここ数年で大幅に増え、天然の漁獲量を超えました。水産物の供給源は、今後は養殖がメーンとなりますし、そこを伸ばしていかないとどうにもならない状況です。

 世界的には2050年までに、養殖水産物を現在に比べ3000万トン増やす必要があるとされています。サーモンをあれだけ養殖しているノルウェーの輸出量が140万トン。チリが100万トン。3000万トンがいかに途方もない数字か良く分かると思います。冗談抜きで無理だと思います。でも、頑張るほかにはありません。

長い道のりですね。魚の養殖は人類の食糧供給を支えるカギとなっていますね。

有路:ええ、かなり重要な役割が求められています。これまで動物性たんぱく質では、鶏肉しか安定的に低価格で供給できるものがありませんでした。1kgの肉を作るのに何kgの飼料が必要かを表す飼料要求率という指標があります。1kgの肉を作るのに飼料が3kg必要だった場合の飼料要求率は3となります。鶏肉の数値は3~4。豚肉が4~6、牛肉は15程度です。これに対し、養殖魚の飼料要求率は2~3と効率的に生育することが可能です。今後の動物性たんぱく質の供給元は、魚とニワトリが主役になるはずです。

日本の養殖業にとっては追い風ですね。

有路:養殖魚の必要性が世界的に高まることは、日本にとってラッキーな状況です。餌と人工種苗という養殖の中心的な技術は世界最高レベルにあります。さらに、自然環境も優れています。暖流の黒潮が日本列島を北上し、寒流も流れている。ホタテやサケの生育に適した冷たい海域から、マグロが泳ぐ暖かい海域まで日本にはあります。

 さらに、養殖スペースの拡大余地もまだあります。これまでは、主に湾内だけで養殖をしてきましたが、いわゆる沖合養殖も最近始まりました。沖合の漁場はほとんど手付かずのままです。法的な管理など実現にはハードルがありますが、スペースはたくさん余っている。世界で最も恵まれた国です。

 半面、ノルウェーやチリなどの養殖大国は、フィヨルドで養殖ができる可能範囲を上限まで利用し尽くしています。こういった状況を考えると、日本が世界に養殖魚を輸出するという構想はかなり現実的な話です。

しかし、日本国内での養殖生産量はここ数年横ばいのままです。

有路:生産量はまだまだ少ないですね。ほとんどが国内市場向けで、需要に上限があるというのが主な理由です。今後養殖生産を増やすためには、海外市場を開拓する必要があります。

 今後の輸出拡大に大切なことは「すし、刺し身ナンバーワン主義」を捨てることだと考えています。海外の人は生ではほとんど食べません。西欧料理で言う所のレアやミディアムレアは表面に何らかの加熱処理を加えた状態です。それにソースやシーズニングをかけて提供します。しかし、日本から海外へ輸出される養殖魚の大半はすしや刺身に使う生食用です。日本食店などしか販売先はいません。日本食店向けはせいぜい北米市場全体の1~2%で、残りの98~99%には到達していません。

相手の食文化を否定しない

どのような海外での販売戦略が必要でしょうか。

有路:海外で食材をマーケティングする際は、相手の食文化、料理を否定しない事が大前提です。北米では魚をソテーにした食べ方など、現地で主流となっている調理法に適した食材の提供方法が必要です。日本勢は全くそういったことをやってこなかった。海外ですしコンテストをやっている場合ではないと思います。現地の食文化を肯定して、市場に入って行かないと市場シェアは伸ばせません。

売り先の確保に加えて、養殖では区画漁業権の調整が難題として立ちはだかります。

有路:今後、私が委員を務める政府の規制改革推進会議で区画漁業権の扱いが議論される見込みです。権利をある程度売買可能にし、流動化させる必要があると私は考えています。株式と同じように、区画漁業権を価値のある有価物として認める。地域の重要な資産であると認めるべきだと思うのです。ノルウェーもかつては零細の養殖業者が多くいました。そこで漁業権が財産であるとノルウェー政府が認め、売買可能にしたことで、事業者の参入が可能になりました。今では大規模事業者による効率経営が実現しています。

 これまで法律で明確に規定されていないところを、ちゃんと法的根拠を持って対応する。区画漁業権で発生する権利の分配の新たなルールを作る事が大切です。

日本漁業の復活は地方創生にもつながりますね。

有路:ノルウェーはかつて、都市部経済に対して地方経済は明らかに足を引っ張っていました。そのため養殖業を振興し、ローカル経済を自立させるよう国が戦略を取りました。サーモンの輸出推進も国策です。いまでは養殖業はかなり収益性の高い産業です。ノルウェーの養殖作業オペレーターは平均年収が1300万円と言われています。養殖業で地方部が自立し、都市部の負担を下げました。日本も同じ事ができるのではと思っています。

 日本の養殖業はまだ黎明期。戦略もそろっていないし、まだ先行投資の時期です。少なくともこの先3~5年は投資をしながら粘らないといけない局面です。しかし、そこでしっかりとした基盤を作れば、その後10年、20年はずっと成長していく産業だと思います。ノルウェーでも、最初の5年や10年はほとんど売り上げが増えなかった。それが、ある時点から指数関数的に急上昇する局面に入りました。日本も同じ経験ができると信じています。

■変更履歴
記事公開後に、日本と世界の資源管理について、より理解しやすい表現とするため有路氏の一部コメントを加筆しました。[2017/10/10 18:45]