業績堅調な小売企業の代表格が国内外で新たな成長に挑む。海外畑からトップに就いて3年目。中国では商品の現地化に乗り出す。「ブランドではないブランド」という個性を急成長の中で維持できるか。
(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)
(日経ビジネス2017年6月26日号より転載)
PROFILE
[まつざき・さとる]1954年、千葉県出身。78年に西友ストアー(現西友)に入社。2005年、良品計画に入社し、執行役員海外事業部中国担当、取締役海外事業部長などを経て15年5月より現職。昨年は86日を海外出張に費やしたが、社長就任前は200日を超えていた。
国内でも大型店に再挑戦して成長を持続できる。
「わけあって、安い」の原点に返り価格引き下げへ。
問 最高益が続いています。どう評価していますか。思った通りに進んだこと、まだ不満に思っていることは何でしょうか。
答 2017年2月期は14期連続の増収、6期連続の増益で、最高益を更新しました。同期を最終年度とする中期計画で目標としていた連結売上高3000億円、海外売上高1000億円、ROE(自己資本利益率)15%以上という数値は、すでに16年2月期に1年前倒しで達成済みです。ただ個別の施策をみると『グローバルで在庫を20%削減する』『EC(電子商取引)の売上高を240億円にし、売上高に占める比率を8%にする』といった目標は、課題が多く残っています。
特にグローバルのサプライチェーンマネジメントは、前の中期計画では全くできなかった。今期からの計画では最優先の目標として掲げています。
問 なぜできなかったのですか。
答 取引先、物流拠点、店舗をつなぐサプライチェーンで、売れ行きに応じてリアルタイムで商品を供給することができませんでした。我々はアイテム数が多く、ペンやスプーンといった細かい品もある。例えば1万本作らないと、原価が十分に下がらないこともあります。適正に在庫を増やそうとしても、売れないものも増えてしまう面があり、難しいのです。私もいけないのですが、担当者らに一時は『欠品をなくさなくては』というプレッシャーがかかったこともありました。17年2月期は在庫金額が700億円を超えてしまいました。
圧倒的に売り場面積が足りない
問 今期から4年間の新たな中期計画では国内で500坪(約1650m2)級の大型店舗を100店に増やす目標です。ただ良品計画は00年ごろ、無理に大型店を出して、経営不振の一因になった過去があります。
答 00年のときは能力を超える売り場をつくってしまい、縮小して不採算店を閉鎖しました。過去と現在で圧倒的に違うのは、商品力が付いて、多くの点数が売れるようになったということです。前期までの中期計画ではグローバルで面積当たりの売上高を10%上げることを目標に掲げ、達成しました。商品政策や陳列の改善の効果です。例えば、健康美容関連商品の売上高は2年前の1.5倍程度に増えており、圧倒的に売り場面積が足りないのです。
問 流通・小売業界をみると苦戦している企業が多い印象があります。そうした中で、堅調な業績を維持できている要因はどこにあるのでしょう。
答 まず海外事業が強いことが当社の特徴です。無印良品は今、海外で認知度がかなり高く、どこの国に出店しても、『MUJI』の潜在的な顧客がいるという状況ですね。年間100店くらいは海外でつくれると思いますが、運営の能力の問題もありますから、約60~70の巡航速度で出店しています。そのうち半分が中国です。残りは基本的に東アジア、西南アジアを中心に出店します。さらに新たな中期計画では、北米にドライブをかけます。
中国への積極出店を続ける(写真=VCG/Getty Images)
問 海外の消費者から支持されるのはなぜですか。
答 品質、デザイン、機能性だと思います。生活の基本となるものを扱っていて、そこに価格の合理性もある。どの国でも起きて食べて寝てという行動は変わらないので、基本的な品ぞろえは、全世界ですべて同じです。
問 各国に合わせた現地化はしないのですか。
答 ローカライズはこれからやっていきます。いよいよ中国では『土着化』に取り組みます。中国は今200店舗を超え、売上高も500億円を超えましたので、ようやく専用商品を作れる規模になってきたのです。今までは効率を重視して、全世界同じものを販売してきましたが、今後は個々の生活に役立つために土着化していきたい。
例えば中国の売れ筋である水筒。日本で販売しているサイズでは小さく、中国の人は2倍から3倍の容量が欲しいという声があります。炊飯器も国内では3合程度のものまでが主流ですが、これも中国では小さい。基本的には生活文化に合わないところを修正していこうという考え方です。
「暮らし方を売る」堤氏の教え
問 日本の小売市場を見ると百貨店や総合スーパーの低迷が一段と鮮明になっています。業界の地殻変動や消費の変化についてどのように見ていますか。
答 百貨店はビジネスモデルが限界にきていると思います。高齢化社会になって品ぞろえの豊富さよりも便利さが求められ、コンビニエンスストアがよく利用されるのでしょう。もう一つの傾向ですが、ものを所有することにそれほどの意識がなくなってきているんじゃないでしょうか。大量陳列、大量販売というのがある程度限界にきているのかなと思います。
問 そういう変化の中で良品計画は「モノ」をどのように買ってもらうのですか。
答 当社は食器にしても家具にしても、いろいろなものは置いていないのです。例えば家具の専門店に行くと、ベッドでもあまりにたくさん種類があって選びにくいという声もあります。これに対して当社は、生活の基本となる本当に必要なものがほどよくそろっていて、価格のばらつきもなく、同じような価格帯で選びやすい。これが当社の独自性です。
問 商品を選択するという機能を顧客の代わりにやってあげるイメージでしょうか。無印良品の目を通して選んだものであることに付加価値があるのですか。
答 これが必要、このサイズがお客様にいいと考えて商品を提供しますが、購入を決めるのはお客様です。衣生食にわたって同じような考え方で提供します。無印良品を立ち上げたセゾングループ創業者の堤清二さんや、無印良品の開発に貢献したクリエーターの田中一光さんは、『ものを売っているんじゃない。暮らし方を売っているのだ』と話していました。
そういう意味では、ぴっと感じる人には我々の商品は非常に当たるんですね。でも多くのものから選びたい人には、正直言って当たらないですよね。
問 どこに行っても買えるような物だったら、競争力はないですね。
答 はい。当社はすべてが自社の企画商品ですから、同じものはマーケットにない。これはやっぱり大きいですね。
問 無印良品がスタートした当初、堤さんは製品ごとのスペックまで入念にチェックして注文をつけてきたそうですね。
答 創設当初は商品判定会というのがあり、外部のデザイナーなどで構成したアドバイザリーボードの方々や堤さんが参加していました。ここで彼らに認められなければ商品として発売できなかった。今も月に1回、アドバイザリーボードのメンバーと意見交換があります。
問 中国のほか、最近進出したインドなどでも将来は現地専用商品が必要になるかもしれません。無印良品の哲学や特色が薄れる恐れはありませんか。
答 商品開発自体は、現地専用商品も含めてすべて東京本社でやります。デザインやモノ作りの考え方は変えず、全部東京でコントロールします。店舗のデザインやレイアウトもすべて東京で管理して確認しているのです。
「ブランドではない」原点守る
問 ブランドイメージを守る努力を重ねているようですが、そもそも「無印良品はブランドではない」と宣言していましたね。
答 『結果としてブランド』になっていると考えています。もともと無印良品は1980年、従来のブランドに対するアンチテーゼとして始まりました。セゾングループの西友が80年に無印良品を市場に出したときに西友は商標登録出願していないのです。これってあり得ないですよね。他人から同じブランドの登録出願があれば西友は使えなくなるわけですよね。それほど『無印はブランドではない』という考え方が徹底していたんです。しかしやはり似たような商品が出てきましたので、その後82年に出願しました。今も紙のタグを取ったら商品自体に無印良品というのは一つも付いていないです。我々は『ブランドではない』というところを非常に守っているのです。
問 国内の価格戦略はどのように考えていますか。
答 無印良品は『わけあって、安い』というキャッチコピーでスタートしました。無印良品というのはわけがあって、つまり素材の選択、工程の点検とか、包装の簡略化といった合理的な理由で安いという意味です。ですから当社は毎年、全世界で価格を見直しています。
国内では去年から今年にかけて価格を全体的には下げています。円安になった2015年に、製造コストが上がり値上げをしました。しかしこの春から価格を戻しています。
問 どれくらいの商品数で、どの程度の価格調整をしているのですか。
答 衣服でいいますと、今年、全アイテムの約12%ぐらいで価格を見直しています。例えば1990円を1490円、3980円を2990円にといった具合に下げています。衣服では、この下期、1品当たりの価格で約9%下がるぐらいの設計になっています。世の中で衣料品が売れないといわれていますが、その要因として各社が値上げしたことがあると見ています。日常生活で使用頻度が高いものについては、安さを求める消費の傾向があると思います。
問 海外でも同じような考えで価格を下げていくのですか。
答 例えば、中国でも現在年に2回は価格の見直しを行っています。理想は世界統一価格です。基本的には、為替の交換レートを適用すれば同じ価格だというようにしたいのです。次の中期計画では40品目で世界統一価格を実現しようと思っています。
問 中期計画では4年間で連結売上高5割増を目指しています。国内市場でもまだ成長が可能でしょうか。
答 例えば、靴下についていえば、我々の国内のシェアは1.87%。今後3~5%を狙っていきたい。シェアを取るためにも店舗の大型化で陳列スペースを広げる必要があるのです。
国内では、100億円以上の売り上げがあるショッピングセンターは、300店弱あるといわれています。我々はそのうち約半分しか店舗を出していないのです。そういう意味ではまだ多くの出店余地があります。国内は年間15~20店舗増やすことを計画しており、まだ安定的に店舗を出して成長できると思っています。
傍白
東京・池袋はいまだに旧セゾングループの街です。駅前にはセブン&アイグループとなった西武百貨店、少し歩くと伊藤忠商事傘下に入ったユニー・ファミリーマートホールディングスがあり、目と鼻の先に良品計画が本社を構えます。グループを率いた堤清二さんの肝いりで始めた無印良品はグループの再建資金を得るために分離されました。
コンビニも含めて総じて苦戦する国内の流通業界では少数派の勝ち組企業。生活提案型のデザインと価格に徹底したこだわりを見せた清二さんが築いたカルチャーが好調を支えています。大展開を目指す海外向け製品の開発も池袋発にこだわっていくようです。「現地製品は現地開発」の動きが多いなか、興味深い挑戦になります。
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