これまでも共に歩んできた、医療とテクノロジー

過去にも、AIやロボットに関連した医療の取り組みはあったのでしょうか。

沖山氏:レントゲン画像のAI診断と似た領域では、心電図の自動診断システムが1970年代から用いられています。折れ線グラフのような単純なデータなので、最近の機械学習アルゴリズムを用いなくても、パターン分類ができてしまうのですね。診断の精度も悪くありませんが、多くの医師は自分の目で診断した後に、ダブルチェックの意味で使っています。手術ロボットについては、精度の高い動きを実現する医師操作型ロボット「ダ・ヴィンチ」が有名です。手の震えをなくし、拡大鏡を用いることで、米粒に文字が書けるレベルの繊細な作業が可能になります。

 パターン分類も、エキスパートシステムと呼ばれる立派なAI技術の一つですが、プログラムを組む人間の能力を超えられないという壁があります。生物の分類を例に挙げれば、陸上の生き物と水中の生き物といった区分けで考えるパターン分類はできます。これによって、ほとんどの哺乳類と魚類を区別できますが、イルカやクジラは魚類に分類されてしまいます。こういった問題を避けるには「ただし、......の場合には~」と、実際には数限りない場合分けの条件が必要です。ここ数年で話題になったディープラーニング(深層学習)は、陸か水かといった人間から見たときに分かりやすい違いでなく、正確な区別に用いる有用な判断基準を自力で見つけ出すことができます。それによって、人間が気づかなかったような特徴をもとに、効率的に仕分けできるのです。

これまでも医療に取り入れられてきたAI技術が、さらに進化しつつあるということですね。日常生活の中で生体情報を収集し、病気になる予兆を察知して未然に対処する未病対策としてもAIの活用が期待されています。

沖山氏:病気の予兆は、いずれ察知できるようになるとは思います。しかし時間がかかるかも知れません。これは、心拍パターンなど日常の生体情報とその後の病気発症を関係付けたデータの蓄積が不足しているためです。また、判断基準も熟慮する必要がありそうです。「血圧が高い人は心筋梗塞になりやすい」といった、確率論的な診断になるかと思われますが、どのくらいの確率で警告を出すかが問題になります。過剰診断と見逃しはトレードオフの関係にあります。例えば、発熱を訴える人全員をインフルエンザと診断すれば見逃しはなくなりますが、明らかに過剰診断です。日常生活の段階で病気の診断を確定することはできませんから、警告を出すタイミングの見極めが大切になります。