TED2016で進行役を務めるクリス・アンダーソン氏(写真:Marla Aufmuth / TED)
TED2016で進行役を務めるクリス・アンダーソン氏(写真:Marla Aufmuth / TED)

確かにそうですね。

 ただ、これまでは、そんな素晴らしい機会に人が巡り合うことは滅多にありませんでした。むしろ、スピーチと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、大学教授や政治家の退屈な講演ではないでしょうか(笑)。言葉の持つイメージ自体が決してポジティブなものではありませんでした。

 でも、今は違います。インターネット、ソーシャルネットワーク、そしてスマートフォンの普及によって、いつでも、どこでも優れたスピーチに触れることが可能になりました。臨場感溢れるトークは、どんな書き言葉よりも強力で、直截に心に訴えかけてきます。

テクノロジーが増幅するスピーチの影響力

 同時に、テクノロジーは自らの優れたアイデアを発表する場にもなりました。これまではアイデアがあっても、それを公の場で発表するチャンスはとても限られていました。出版社に何度も手紙を書いたり、テレビのプロデューサーに一生懸命売り込んだりと、途方もない努力を要しました。しかし、今ならアイデアが優れてさえいれば、ソーシャルメディアが黙っていても世界に拡散してくれます。

 活版印刷が書き手の力を何倍にも増幅したように、ネットは話し手にこれまでにないほどのパワーを与えてくれます。これが今、パブリック・スピーキング革命が起きていると僕が考える理由です。人々はこれまで以上に人前で話すことに対するリテラシーを磨くことが求められると思います。21世紀は、読み書きそろばんに加えて、スピーチが必須の基礎能力になると本気で思っています。

とはいえ、スピーチを人前で披露することを苦手にしている人は少なくありません。特に日本では、スピーチをする経験は社会人になるまでほとんどありません。

アンダーソン:確かに、国によって違いはあるでしょう。固有の文化など、その理由も様々だと思います。すぐその現状を改めるべきだと主張するつもりはありません。ただ、スピーチの本質である「自分のアイデアや考えを相手に分かりやすく伝える」という行為は、これからの時代に不可欠なスキルになるということだけは知っておいて欲しいと思います。

 先ほど、パブリック・スピーキング革命はテクノロジーの発達によって起きたと述べました。一方で、テクノロジーの発達はいいことばかりではありません。これまで人間が担っていた仕事を奪っていく可能性もあります。

 巷間、AI(人工知能)やロボットの台頭によって、どのような職業がなくなるかといった脅威論が盛り上がっていますね。その予想がどこまで当たるかは誰にも分かりませんが、確実に言えるのは、テクノロジーの発達によって、今、人は改めて「自分にしかできない価値は何か」を突きつけられているということでしょう。

 では、ロボットに置き換えられない価値とは何でしょうか。少し哲学的ですが、私は「人間にしかできない可能性を覚醒させること」にあると思っています。そう遠くない将来、専門知識を使って同じ仕事を繰り返してきた歴史は終わりを告げると思います。それは毎年コメを収穫する労働だったり、工場のラインで単純作業を繰り返すことだったりしますが、その大半はロボットが代替することになるでしょう。

 そうなると、人はおそらく、そうしたルーチンワーク以外のところに人間の価値を見いだすようになります。それは、より人の創造性を必要とするものであり、異質なものをつなぎあわせる発想であったりするかも知れません。いずれにしても、これまでのように特定の分野の専門知識を詰め込むだけでは、ロボットにはかなわないでしょう。

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