今年2月にカナダのバンクーバーで開催された「TED2016」の様子(写真:Marla Aufmuth/TED)
今年2月にカナダのバンクーバーで開催された「TED2016」の様子(写真:Marla Aufmuth/TED)

 様々な分野の才能が一堂に会し、スピーチを通じて互いの発想を刺激し合う「TED Conference(テッド カンファレンス)」。1984年に米西海岸で有識者のサロン的な集会として始まり、「Ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)」を披露し合う場として、年々規模を拡大してきた。その模様を録画したネット「TED Talks」の再生回数は年10億回を突破。派生イベントである「TEDx」は世界3000カ所以上で開催、日本でも「TEDxTokyo」を始めとした無数のTEDイベントが開催されている。

 その元締めとも言える非営利組織TEDの代表を2001年から務めているのが、クリス・アンダーソン氏。新著『TED TALKS スーパープレゼンを学ぶTED公式ガイド』では、この15年間に蓄積した優れたスピーチのノウハウを披露しつつ、「パブリック・スピーキング革命」と呼ぶ時代の到来を指摘している。「スピーチは21世紀の教育に不可欠になる」と断言するアンダーソン氏に、その理由を聞いた。

(聞き手は蛯谷 敏)

<b>Chris Anderson(クリス・アンダーソン)氏</b></br> TED代表兼キュレーター。1957年、宣教師だった父の赴任先パキスタンに生まれる。幼少期をパキスタン、インド、アフガニスタンで過ごし、英国に帰国。78年に英オックスフォード大学卒業、その後ジャーナリストとして活動した。85年に出版社のフューチャー・パブリッシングを創業。その後も、100以上の雑誌やウェブサイトを手がけ、成功を収める。2001年、自身の財団を通じて非営利団体のTEDを買収した。米ニューヨーク在住。(Photograph (c) TED/Chris New)
Chris Anderson(クリス・アンダーソン)氏
TED代表兼キュレーター。1957年、宣教師だった父の赴任先パキスタンに生まれる。幼少期をパキスタン、インド、アフガニスタンで過ごし、英国に帰国。78年に英オックスフォード大学卒業、その後ジャーナリストとして活動した。85年に出版社のフューチャー・パブリッシングを創業。その後も、100以上の雑誌やウェブサイトを手がけ、成功を収める。2001年、自身の財団を通じて非営利団体のTEDを買収した。米ニューヨーク在住。(Photograph (c) TED/Chris New)

2001年にTED代表に就任して以来、初めてTEDに関する本『TED TALKS スーパープレゼンを学ぶTED公式ガイド』を出版しました。まず、その理由について教えてください。

アンダーソン:2つあります。1つは、僕達がこの約15年間続けてきたTEDの経験が、それなりに蓄積されてきたことで、一度それをまとめたいと思ったこと。ご存知の方も多いかも知れませんが、TEDは「Technology」「Entertainment」「Design」の頭文字を取ったもので、異なる3分野を結びつける年に1度のカンファレンスとしてスタートしました。

 それが5年経ち、今や世界各国でTEDのブランドが知られるようになりました。オンラインで提供しているTED Talksの再生回数は、2015年で10億回を突破しました。さらに、世界各地の有志が自主的に開く「TEDx」も活況で、これまでに3000カ所以上で開催されました。現在も8つ9つのTEDxイベントが毎日どこかで開催されています。

 この間、僕らは何百人もの講演者と一緒に、限られた時間でどうすれば効果的なメッセージを伝えられるか、徹底的に考え抜いてきました。時に驚かせ、時に楽しませ、時にインスピレーションを与えるスピーチは、いかにして生み出されるのか。もちろん、失敗も数知れず経験しましたが、これらのコラボレーションを少しでも記録しておきたいと考えたからです。

パブリック・スピーキング革命の胎動

 ただし、動機としてそれ以上に大きかったのは、2つめの理由です。それは、世界で今、「パブリック・スピーキング革命」とも呼べる動きが起きていることを伝えたかったのです。

パブリック・スピーキング革命ですか?

アンダーソン:簡単に言えば、人前で自分のアイデアや考えを披露するスピーチという手段が、新たな変化を起こすツールとして、これまでになく重要になるということです。優れたスピーチを聞いた時、人は鳥肌がたち、前身に電流が流れるような体験をします。心を震わせ、時にその人の生き方を変えてしまうことさえあります。

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