統合的価値を分かる人材に経営を託せ

突き詰めれば、スティーブ・ジョブズとか、ジェームズ・ダイソンとか、そういう強烈なリーダーが旗を振らないと、統合的価値はなかなか実現できないということでしょうか。

延岡氏:やはり、統合的価値を本当に分かる人に任せた方がよいでしょう。ただ、こう言うと結局、経営じゃなくて単に人の問題か、という意見も出てくるかもしれません。しかし、組織として価値を分かる人を育て、選び、任せられるかどうかは、まさに経営の問題といえると思います。

例えば、70~80年代、日本は「軽薄短小」の技術が得意とされ、ソニーの「ウォークマン」などが世界を席巻しました。

延岡氏:その例えで言えば、“新しい価値を作った”というのはイノベーションだけれども、当時は日本の技術が進んでいたからこそ、それができたんですよね。今は、技術に関しては半年もすれば、似たようなものをライバルが簡単に作ってしまう。

 かつては、技術さえ良ければ、本当の価値やイノベーションが付いてくる時代でした。例えば、品質を磨けば、それがそのまま新たな顧客価値の創造に結びつきました。

 

 しかし、今は競争が激しく、技術的な優位性を保ち続けることが難しくなっています。ウォークマンは、顧客が本当に喜ぶようなアイデアに軽薄短小の技術力が組み合わさったことで優位性を保てたわけですが、最近は技術力で差をつけることが難しくなってきており、ウォークマンよりももっと高い次元の意味的な価値で勝負しなければならなくなっています。

 

自社内でイノベーションを生み出すのが難しいから、「オープンイノベーション」を掲げてコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)を作り、スタートアップに投資する大企業が増えています。技術やノウハウ、資産を持ち寄ってイノベーションを起こそうという取り組みですが、どう見ていますか?

延岡氏:それも「手段」の話ですよね。オープンイノベーションも、まずは目指すべき新たな価値は何かが重要でしょう。組織や枠組みを作って満足してしまっては、本末転倒です。

 過去50年、文明の発展は目覚ましく、高度に暗黙化した価値の理解が追い付いていないのではないでしょうか。分かりやすく言えば、カタログの数値に表せない価値をどう理解するのか、ということです。

そのような暗黙的な価値を見いだすには、何かいい方法はないのでしょうか。

延岡氏:確かに難しいですよね。文明の高度化は価値の成熟を意味しますが、それが凡人にはなかなか難しい。むしろ、イノベーションによって目指すべき暗黙的な価値すらAIが見つけ出す時代が来るかもしれません。AIは、人間が見いだせなかった物事の関連性などを、膨大なデータから見いだすことが得意ですから。

イノベーションの目標は、ある意味、人類の進化の方向性を決めることですよね。それを人間自身ができなくなるというのは、人間の存在意義を問われているような気がします。

延岡氏:そうならないためにも、イノベーションを語る時、安易に手段の議論に陥ってはならないのです。

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