國府田遼氏(オープン編集会議メンバー/東芝デバイス&ストレージ):私が身を置く半導体業界はまさに設備産業です。商品開発を進めるかどうかは、既存の設備や人員が活用できるかどうかという、まさにレガシーが大きな判断基準となっています。

杉田氏:半導体はまさにドラスティックに変化した業界でしょう。製造部門の価値は下がり、製造を捨てるか、逆に特化するかに分かれてきました。急成長してきた米エヌビディアや英アームホールディングスは、設計やライセンス供与に特化しています。

ボストンコンサルティンググループの杉田氏

國府田氏:工場を持つ企業は、どれだけ高性能な設備を導入したかが強みになっています。しかし、設備投資ができず古い設備を使い続けなければいけない場合は、歩留まりが低いなど競争力が劣ってしまうかもしれません。

角岡幹篤氏(オープン編集会議メンバー/富士通研究所):私自身はIT業界にいるので、本来はイノベーションをけん引すべき存在です。ただ技術の進化は著しく、昔の技術はどんどん価値が失われていってしまいます。だからこそ、イノベーションを起こすためには、エンジニアのスキルセットを変えていく必要があると思っています。

新旧2つのIT業界を隔てるもの

杉田氏:何となくですが、IT業界には「古いIT」と「新しいIT」があると見ています。日本では古いIT企業が強い。逆にお聞きしたいのですが、新旧2つのITを隔てるものは何なのでしょうか。

角岡氏:現在、IT業界では古い技術から新しい技術の開発に人員をシフトさせています。40代でも猛勉強した人は新しい領域で力を発揮しています。新旧を隔てているのは、学べるかどうか、ではないでしょうか。

杉田氏:個人のスキルについては確かにそうでしょう。ただ、IT企業の新旧を隔てるのは、個人のスキルとは別の構造問題がある気がします。

木戸美帆氏(オープン編集会議メンバー/日産自動車):IT業界の外からの意見ですが、古いITと新しいITの差は、ハードウエアを持つか持たないかの違いが大きい気がします。

角岡氏:(開発などの業務に)自由度があるかどうか、という視点もあると思います。何かを始める際に、上長の承認が逐一いるかどうか、独自の判断で取りかかれるかどうか、という違いは大きいでしょう。

杉田氏:個人的には付加価値を生み出す源泉が、物理的な「モノ」から「ヒト」に移っている気がしています。例えばAI(人工知能)の企業を買収する際、ほしいのは「モノ」ではなく、そこで働く「ヒト」ですよね。会社にとって価値があれば高額で雇えばいいはずなのに、大企業だと人事制度の壁が邪魔をする。工場の高い設備に投資するように、ヒトに対しても投資だと考えればもっと高い報酬を支払えるはずなのに。価値の源泉がモノからヒトへと変化する中で、その潮流に対応できない企業が新たな価値を生みにくくなっているように思います。

 違う言い方をすれば、なぜ既存の大手百貨店に「ゾゾタウン」(スタートトゥデイ)が生み出せなかったのでしょうか。価値の源泉の考え方が根本的に違うのかもしれない。

額田純嗣氏(オープン編集会議メンバー/三越伊勢丹):大企業は世の中のマジョリティーを見過ぎているのではないでしょうか。百貨店業界で言えば、これまでは新品を取り扱うビジネスにこだわってきました。インターネットで中古品のビジネスが台頭してきて、ようやく世の中の変化に気が付きました。

イノベーションは辺境でしか起きない

大竹:大企業には組織構造を含め、さまざまな悩みがありますね。

ボストンコンサルティンググループの植草氏

植草氏:私の持論は、イノベーションは辺境でしか起きない、というものです。企業のメーンストリームではなかなか難しいですね。メーンストリームがおかしくなると会社の屋台骨が揺らいでしまいますが、辺境だと様々な実験ができます。仮に失敗しても、そのコストは小さくて済むからです。

 歴史をひも解けば、キリスト教のプロテスタントは、カトリックの総本山があるイタリアではなく、当時の辺境だったドイツで生まれました。ビジネスも同じです。例えば格安航空会社(LCC)で成功した豪カンタスグループ傘下のジェットスター。この成功は、ジェットスターを本体から切り離して別会社で運営したのが大きな要因でした。大企業の中で真剣にイノベーションを起こすなら、別組織にするしかないでしょう。