イノベーション推進室やコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の設立……。大企業がイノベーション創出に躍起になっているが、本当にイノベーションを起こせているのか。大企業を顧客に数多く抱えるボストン コンサルティング グループの杉田浩章日本代表と、植草徹也シニア・パートナー&マネージング・ディレクターに、「オープン編集会議メンバー」とともに聞いた。
■オープン編集会議とは
読者が自分の意見を自由に書き込めるオピニオン・プラットフォーム「日経ビジネスRaise(レイズ)」を活用し、日経ビジネスが取材を含む編集プロセスにユーザーの意見を取り入れながら記事を作っていくプロジェクト。一部の取材に同行する「オープン編集会議メンバー」も公募。Raiseユーザー、オープン編集会議メンバー、編集部が一緒に日経ビジネス本誌の特集などを作っていく。
<進行中のプロジェクト>
日経ビジネス7月23日号特集「イノベーション・イリュージョン(仮)」
<オープン編集会議のこれまでの主な活動>
+オフライン
キックオフ会議(6/6)
インキュベイトファンド村田祐介代表パートナーへの取材(6/12)
ボストン コンサルティング グループ杉田浩章日本代表への取材(6/21)
+オンライン(Raise)
Room No.01 日本のイノベーションは停滞している?
Room No.02 取材でこれを聞いて!イノベーションの質問を募集
Room No.03 イノベーションを阻む「大企業病」、どう打ち破る?

大竹 剛(日経ビジネス編集):イノベーションについての議論を進めている中で難しいと感じるのが、「イノベーション」という言葉の定義やイメージがあいまいなことです。ある人にとっては、社会構造を変える破壊的な商品・サービスを指しますし、ほかの人にとっては既存の商品・サービスのちょっとした改善もイノベーションに含まれるかもしれません。杉田さんと植草さんは、顧客企業とイノベーションを議論する際にどう定義していますか。
ボストン コンサルティング グループ(BCG)日本代表・杉田浩章氏:確かに、人によってさまざまな捉え方がありますよね。先日、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄・准教授と対談した際にも同じような話となり、「イノベーションは目的でもなければゴールでもない」という結論になりました。
価値の変革や技術の変革もあれば、使い方の変革もあります。「カイゼン」との違いは難しいですが、結果的に社会から見て「価値の変容」を起こすことがイノベーションではないでしょうか。いずれにせよ、何をゴールに定めているか、を踏まえてイノベーションが起きているのかを評価すべきでしょう。
イノベーションを定義する暇なんかない
BCG植草徹也シニア・パートナー&マネージング・ディレクター:私が担当している製薬業界では、イノベーションがないことは企業として「死」を意味します。新薬を開発して市場に投入しても、10年ほどで特許が切れて、その後はジェネリック(後発薬)が市場に参入してきて、売上高が激減してしまう。イノベーションの種類で言えば、(新薬を生み出すという)テクノロジーのイノベーションが必須です。いちいち、「イノベーションとは何か」なんて定義している暇はありません。私に言わせると、定義は何か、議論をしているのは悠長だなと感じてしまいます。
杉田氏:今、大企業の中でイノベーションの必要性が声高に叫ばれているのは、かつてのように新たな価値を生み出さなくても生きていける時代ではなくなってきたからでしょう。
大竹:従来の延長線上では生き残れなくなってきたのはなぜでしょうか。
杉田氏:技術のコモディティー化は大きいでしょうね。デジタル化でコスト構造がガラリと変わりました。これまでは過去の蓄積で競合に勝つことができたかもしれませんが、もはやそのような時代ではありません。テクノロジーのおかげで、ライドシェアの米ウーバーテクノロジーズのように、低コストで新たな価値を生み出すプレーヤーが生まれやすい環境になっています。
レガシーなアセット(資産)を積み上げても、意味がなくなっているんです。かつて、大企業にとってはレガシーこそが強みになっていたわけですが、今はまさにジレンマに陥っています。
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