京都大学発ベンチャー企業を育成する目的で、京大は2014年(平成26年)12月22日に100%出資によって京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP、京都市)を設立した。京都大学の教授や研究者などが産み出す優れた研究成果などの独創的な“知識”を育成することを目的とする。京都iCAPの代表取締役社長には樋口修司氏が就任した。

 樋口社長は、約1年半をかけて、同社に専門スタッフを集め、京大内外の教員や研究者、識者などと議論を続け、投資活動の基本理念と基本戦略を練り上げた。そして、いよいよ今年5月から投資活動を始めた。160億円の第一号投資ファンドを活用し始めた基本方針などを聞いた。

(聞き手は丸山 正明=技術ジャーナリスト)

京都iCAPは2016年5月19日に、京大発ベンチャー企業であるAFIテクノロジー(京都市)など3社に投資すると発表しました。投資先として、今回の3社を選んだ理由や経緯などを教えてほしい。

<b>樋口修司(ひぐち・しゅうじ)氏</b></br><b>京都大学イノベーションキャピタル代表取締役社長</b></br>1963年、京都大学薬学部を卒業、武田薬品工業に入社。中央研究所・医薬開発本部、国際事業本部に約40年間勤務。1999年、武田薬品のコーポレートオフィサー・執行役員。2002年、先端医療振興財団(神戸市)の事業統括。2004年、京都大学の京都大学医学部附属病院の医療開発管理部長・特任教授。2014年、京都大学の産官学連携本部長補佐。2014年12月、京都大学イノベーションキャピタルの社長に就任。
樋口修司(ひぐち・しゅうじ)氏
京都大学イノベーションキャピタル代表取締役社長
1963年、京都大学薬学部を卒業、武田薬品工業に入社。中央研究所・医薬開発本部、国際事業本部に約40年間勤務。1999年、武田薬品のコーポレートオフィサー・執行役員。2002年、先端医療振興財団(神戸市)の事業統括。2004年、京都大学の京都大学医学部附属病院の医療開発管理部長・特任教授。2014年、京都大学の産官学連携本部長補佐。2014年12月、京都大学イノベーションキャピタルの社長に就任。

樋口:5月19日時点では、3社の中の1社のAFIテクノロジーには既に投資済みであり、残りの2社は近々投資を実行するという発表内容でした。

 投資案件の第一号となったAFIテクノロジーは、電気計測とマイクロ流路という2つの独創的な要素技術を組み合わせて、細胞や微生物を迅速かつ簡単に分離・精製・検出する装置の事業化を図っているベンチャー企業です。

 血中のがん細胞の検出やiPS(人工多能性幹細胞)細胞などの再生医療の事業化を進めるためには、細胞・微生物を分離・精製し検出する装置の実用化・製品化が不可欠です。その基盤となる製品の実用化・事業化を図っているのがAFIテクノロジーです。

 同社は京大大学院医学研究科の戸井雅和教授の研究成果と大阪大学大学院工学研究科の紀ノ岡正博教授との共同研究を基に事業化を図っています。同社の代表取締役は円城寺隆治氏が務めています。

 再生医療事業化などを図る研究開発を進めている様々な分野の研究者や開発者から期待が高まっているAFIテクノロジーの製品化・事業化を支援することは、この分野を手がける大学や企業などの研究開発が一層加速するという好循環ができると判断して、投資しました。

具体的な投資内容は。

樋口:当社をはじめとするベンチャーキャピタル4社は、AFIテクノロジーに対して、総額2.5億円の投資を5月18日に実行しました。

 今回の投資の特徴は、当社がリードインベスターとして1.4億円を投資し、これに大阪大学ベンチャーキャピタル(大阪府吹田市、OUVC)、みなとキャピタル(神戸市)、みやこキャピタル(京都市)が共同して総額2.5億円の、いわゆる最初の「シリーズA」投資の第三者割当増資として協調投資したものです。

 OUVCは大阪大学が100%出資して設立した大阪大ベンチャーキャピタルです。今回、AFIテクノロジーへの投資は、国立大学の子会社のベンチャーキャピタル同士が協調して投資した案件の第一号である点も特徴です。

 また、みやこキャピタルは京大が認定する投資ファンドをつくっている“仲間”のベンチャーキャピタルです。

 

今回、投資決定した別の2社について教えてほしい。

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