悩ましい、法的なコンプライアンス
ブロックチェーンの活用先について、IoT(モノのインターネット)も有望視されています。

柳川:スマートコントラクト(プログラムに基づいて自動的に実行される契約)とIoTの組み合わせにおいて、ブロックチェーンは大きな効果を発揮するとみています。IoTでは新たな情報やデータを容易かつ大量に入手でき、そしてこうした情報やデータを機器間や企業間などでやり取りして新たな価値を創出したり、サービスを生み出したりすることができるようになります。その際には、スマートコントラクトによって、得られた情報に基づいて、自動的に発注をしたり決済をしたりすることが期待されています。
しかし、そのためには情報やデータ、発注や決済の事実をきちんと記録しておくことが不可欠となります。また、スマートコントラクト自体も改ざんされない形のプログラムになっている必要があります。これらをきちんと記録しておくうえではブロックチェーンはとても有効で相性が良いと考えられるからです。
ただし、ブロックチェーンを使う方がよいことが分かっても、複雑なスマートコントラクトを実装していく際には、法制度とどう整合性を取るかが大きな課題となります。契約に関する現行の法律は、ブロックチェーンやスマートコントラクトを前提にはつくられていません。そのため、スマートコントラクトの法的有効性をどう考えるのかが、問題になるのです。ここがクリアにならないと、技術的には可能でも、現実にはサービスの事業化が難しいケースも出てきそうです。
スマートコントラクトの利用拡大を考えれば考えるほど、法制度を見直す必要性が高まってくるわけですね。
柳川:スマートコントラクトということは、契約を交わす内容がコンピュータープログラムやコードで記述されているということです。コンピューター言語で記述され、それに基づいて実行されているので、これがはたして契約なのかと問われれば、現行法では契約だというのは、なかなか難しいでしょう。紛争が起きて、裁判所にプログラムを提出したところで、それに基づいて裁判が行われるとは考えにくいです。
そうなると、現行法上では、別途、紙の契約書を用意して、それに基づいて合意された取引が行われるという形にならざるを得ません。現実的には、紙での契約書があって、それに基づいて書かれたコードがあって、それに基づいて取引等が実行されるということになります。
しかしながら、それではスマートコントラクトの魅力を大きく半減させてしまうことになります。IoTとスマートコントラクト、そしてブロックチェーンの組み合わせには大きな可能性がありそうですが、ここにはこのような法的課題が横たわっています。
IoTが絡む今後のビジネスを考えると、もっと複雑なケースが起こると思います。
柳川:IoTの黎明期であれば、情報やデータの取引や決済を自動で実行するような取り決めをする際、人間同士が日本語や英語などで契約を取り交わすことになるでしょう。しかし、将来的には、自動化のレベルがどんどん高まり、場合によっては、人や組織が介在しないところまで自動化される可能性も指摘されています。機械と機械がプログラムで何らかの合意に至っているとなると、それを契約として法的にどこまで考えられるのかは、大きな問題です。また、紛争が起こった場合に、人が必要になるのか、裁判はどうあるべきなのかも、将来的な問題ではありますが、難しい課題です。
人によっては、高度なスマートコントラクトを実装したブロックチェーン技術を用いれば、仲介機関を必要とせずに取引が可能になるし、組織もやがて必要なくなるのでは、と主張する人もいます。しかしながら、個人的には、紛争が現実には発生する可能性があるので、その対処のためには、人や組織が必要になると考えています。
しかし、その程度はどのような法制度が整備されているかに依存しますし、言い換えると法制度がどのようなものになるかによって、スマートコントラクトやブロックチェーン技術がどこまで活用されるかが左右されることになります。
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