柳川:当時、今日あるようなインターネットを使ったサービスは当然ありませんでした。分かっていたことは、単に「インターネットを使えば皆が通信できるようになる」ことだけ。どのようなサービスが可能になるのか、自分たちのビジネスで何が変わるのかなど、イメージできていた人はほとんどいなかったはずです。それは、インターネットがあまりにも基礎的な技術だったことに起因します。どのような分野でも使えそうだけど、具体的なビジネスは見えていませんでした。
今のブロックチェーンは、当時のインターネットに似ています。台帳の基礎技術であり、様々な分野で利用できるという潜在的なポテンシャルを秘めていますが、ブロックチェーンの上に“利用するアイデア”が載ってこないと、産業や社会にどのような変化をもたらし得るのかイメージできません。今のところ、ブロックチェーンの上にアイデアが載っていない段階なので、具体的にどんな革新をもたらすのかがイメージできない状況です。
「ブロックチェーンで何をやるか」の“何か”がまさに、ブロックチェーン上に載せる“利用するアイデア”ですね。だからこそ、ブロックチェーンの上に何を載せるのかを盛んに実証実験する必要があると。
柳川:ブロックチェーンを利用する“いいアイデア”が現れることで、ブロックチェーンの潜在能力の高さをイメージしやすくなると思います。インターネットでいうところの、“検索サービス”に相当するものです。インターネットで検索するようになってから、インターネットのビジネスは大きく成長していきました。検索がビジネスの芽になるとは、当時大多数の人たちは想像していなかったと思います。そのような世の中を大きく変え得るサービスが、ブロックチェーンを使って出てくると考えています。
確かに、インターネット検索が一般化したことが、今日のデータ活用ビジネスにつながったといえます。現時点から過去を振り返ると、キッカケが何であったのかが分かりますが、当時から現在を見通すのはかなり困難です。
柳川:想像するのは相当困難です。ブロックチェーンの特徴から連想できる面白さを突き詰めて考えたり、今のビジネスの縛りから思考を解き放って想像したりといったことが必要になるでしょう。もちろん、現在のビジネスの延長線上に、ブロックチェーンを利用するビジネスがあるとは思います。ただ、画期的で革新的なビジネスは、現在は当たり前ではない使い方から生まれると推察しています。
現在のビジネスでブロックチェーンの効果をフルに発揮できることは少ないのでしょうか。
柳川:おそらく、今の段階で思いつく程度のビジネスだと、画期的で革新的とはいえないかもしれません。ただし、現在のビジネスでも、ブロックチェーンの効果が発揮できるところはたくさんあるはずです。
確実に言えることは、「記録をきちっと残していくことが重要なビジネスで、ブロックチェーンは重宝される」ということです。最たる例が、行政でしょう。きっちりとした記録を残し、間違いのないデータや情報を提供するというのは、行政の大きな役割ですので、ブロックチェーンの効果を発揮させやすいでしょう。
国レベルで電子的な行政サービスを提供するエストニアのような考え方ですね。ブロックチェーンを効果的に活用していると聞きます。
柳川:はい、電子政府的な考え方です。間違いのないデータや情報を提供し、そしてきちんと記録を残すというのは、行政だけではありません。不動産など登記にまつわるところも、ブロックチェーンを使った方が間違いは発生せず、手続き完了までのコストもかなり低下させることができます。
現在のブロックチェーン技術は、金融取引のような1秒未満で大量の取引や決済を完了させるような使い方にはあまり適していません。ただし、不動産登記など、手続きの手順が多く、そもそも現在は完了するまでに何日も要しているような作業については、作業時間をむしろ短縮できる可能性もあります。
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