シリコンバレーのスタートアップ・エコシステム(起業家を育む環境、生態系のこと)が抱える問題点について、さらに詳しくお話ししましょう。

 私が思うに、問題点は主に3つ。それらのせいで、シリコンバレーのイノベーション・モデルは破綻していると言っても過言ではありません。

イノベーションの輪が世界に広がらない3つの元凶

具体的に教えてください。

リービン:一つ目は、先ほども話した投資環境の問題です。

 最近のベンチャーキャピタルは、1000億円~1兆円レベルに成長しそうな事業アイデアにしか投資をしなくなっています。この「1兆円フィルター」は、おそらく99.9%の事業アイデアをダメにしています。

 この中には、1兆円規模にはならないにせよ、世の中の課題を解消する「良い製品」を生む可能性を秘めたアイデアがあったかもしれない。

 実際のところは、どのアイデアが1000億円~1兆円規模に成長するかなんて、誰にも分からないんです。

 (今では企業価値が7兆円を上回るといわれる)配車サービスのウーバーを立ち上げたトラビス・カラニックは、創業したばかりの頃、「100億円くらいの会社にはできるかもしれないけど、それ以上は難しいかもね」なんて話していました。

 同じく(今では企業価値で3兆円規模とみられる)空き室シェアサービスのエアビーアンドビーも、創業当時、誰もこんなに大きな会社になるなんて思っていませんでした。

 ですから、本来は事業の成長規模より先に、アイデアが持つ価値そのものに目を向けなければなりません。良いアイデアかどうかを見定めて、製品を磨き込む。その結果として1000億円~1兆円規模に成長する企業が出てくれば御の字、という姿勢が大切です。

 次に2つ目の問題についてお話ししましょう。多くのスタートアップが、エンジニアやデザイナーといった「クリエーター」をCEOにせざるを得ない状況に追い込まれているという問題です。

 最近は、クリエーターが共同創業者に名を連ねていないと、投資家から出資を得にくくなっています。クリエーターが経営者になれば、投資家は「アイデアを形にするのはあなた自身だよ」と言いやすくなりますからね。

 でも、これが起業後の非効率を生む元凶になっています。「良い製品」を作るために起業した人たちが、「良いCEO」になるとは限らないからです。

 私の知る限り、良いクリエーターでありながら良いCEOでもある、という人は非常にまれな存在です。クリエーターがCEOになると、ファイナンスや法務、組織人事といった「違った種類のパズル」を解くことに失敗して、辞めてしまうケースがとても多い。

 会社が失敗した理由は「製品」にあったわけではないにもかかわらず、ゼロからやり直さなければならないのは、とても非効率ですよね?