それで、ベンチャーキャピタルに参画する道を選んだのですね。
リービン:そうです。縁があって、2015年に米ベンチャーキャピタルのゼネラル・カタリスト・パートナーズに参画しました。ただ、約2年間投資の世界に触れてみて、現在の起業支援には構造的な問題があることにも気付きました。
我々ははまだ、アントレプレナーシップ(起業家精神)の本来あるべき姿を形にしきれていなかったんです。
投資家に転身して分かった起業支援の問題点
「起業家精神」の本来あるべき姿とは、どのようなものですか?
リービン:「Entrepreneurship is the pursuit of opportunity beyond resources controlled」。日本語に訳すなら、「起業家精神とは、自分がコントロール可能な資源を超越して機会を追求すること」でしょうか。
これはハーバード大学のビジネススクールでアントレプレナーシップ研究の大家だったハワード・スティーブンソン教授の言葉です。私が起業家精神について議論したり、文献を読んだりしてきた中で最も好きな定義です。
スティーブンソン教授は、あらゆるしがらみから自分自身を解き放つことが起業家精神だと言います。つまり、あなたが今どこにいて、何を持ち、どう始めるかなんて問題ではない、という意味ですね。
しかし、現実にはこうした行動を取ることはとても難しい。特に大企業の場合は深刻です。どうしても、「今あるもの」を守ろうとしてしまいますからね。
さらに、起業家を支援するベンチャーキャピタルにも、問題があります。彼らは、ビジネスモデル自体に矛盾を抱えています。
どんな矛盾ですか?
リービン:スタートアップを素早く成長させるには、資金調達をするのが近道です。そこで起業家は、ベンチャーキャピタルに事業のアイデアや製品のプロトタイプ(試作品)を売り込み、出資をお願いします。
一方で、ベンチャーキャピタルの仕事の目的は、投資した後にリターンを得ることです。そのため、多くの投資家は、たくさんあるアイデアの中で最も成功しそうだと感じたもの・人にしか投資をしません。
中には、毎年1000~2000くらいのスタートアップを見て、そのうちベストな1社だけに投資をするようなベンチャーキャピタルもあります。多く見積っても「1000人いる起業家のうち1人しか助けていない」という計算になりますよね。これでは圧倒的に支援する会社の数が少な過ぎるんです。
それに、起業家は無事に出資を得ても、今度は「製品」を作り育てていくのとCEOとして「会社」をマネジメントしていくのは別物だという問題に突き当たります。
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