トランプ米大統領が5月8日、イラン核合意からの離脱を決めた。「近隣諸国の核武装を抑止する機能が低下する」と懸念する向きもあるが、村上拓哉・中東調査会協力研究員は「イランは穏健路線を維持する」とみる。その背景に何があるのか。(聞き手 森 永輔)

米国によるイラン核合意離脱に抗議するテヘラン市民(写真:AP/アフロ)

ドナルド・トランプ米大統領が5月8日、イラン核合意からの離脱を決めました。「イランは核エネルギーの平和的な利用だけを考えているという巨大な作り話に基づく」と断定。この合意では、イランは短期間で核兵器が獲得できる状態にとどまる、核弾頭を搭載できる弾道ミサイルの開発にも対処できない、と理由を挙げています。これらも含めて、今回の離脱の理由をどう分析していますか。

村上:それらに加えて、この合意に反対する共和党議員からの強い支持があったと思います。彼らは、核合意の交渉中に「(もし合意に至ったとしても)次期大統領が無効にすることができる」との書簡をイランの指導者宛に送ったりしていました。

村上拓哉(むらかみ・たくや)
中東調査会協力研究員。2007年3月、中央大学総合政策学部卒業。2009年9月、桜美林大学大学院国際学研究科博士前期課程修了(修士)。2009年10月~2010年8月、クウェート大学留学。在オマーン日本国大使館専門調査員を経て中東調査会に

 「この合意ではイランの核開発を封じることができない」との懸念を感じているからでしょう。トランプ大統領が指摘しているようにミサイルの開発を止めるものではありません。イランが心変わりし、核開発を秘密裏に行う可能性も完全に否定することはできません。

 1994年の米朝枠組み合意が北朝鮮の核開発を止めることに失敗したように、イラン核合意についてもこうした懸念を抱くのはもっともです。ただし私は、合意を維持していく方がイランの核開発を制限できると考えています。

 共和党議員からの支持に加えて、トランプ大統領自身が持つ姿勢もあるでしょう。1つは、バラク・オバマ前大統領のレガシーを無に帰したいという考え。TPP(環太平洋経済連携協定)から離脱したのと同様です。2つ目はトランプ大統領のイラン観です。

それは、親イスラエルの裏返しですか。イランとイスラエルは対立の度を深めています。トランプ大統領は在イスラエル米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを決めました。娘婿のジャレッド・クシュナー氏はユダヤ教徒です。

村上:トランプ大統領の中で親イスラエルと反イランがどこまでつながっているかはよく分かりません。親イスラエルであることは間違いありませんが、イスラエルのネタニヤフ首相が求めることをすべて受け入れているわけでもありません。

 シリアに対する米国の姿勢にネタニヤフ首相は不満を抱いていることでしょう。イランが支援している民兵やヒズボラ*がシリアで活動範囲を拡大させているのを放置しているのですから。イスラエルにとって目前の問題は彼らの存在です。イランの核は、将来に問題となる可能性はありますが、「今」の問題ではありません。

*レバノンで活動するイスラム教シーア派政治組織

 ただしネタニヤフ首相がトランプ大統領に対してこの状況に強く文句を言うことはないでしょう。オバマ政権との関係に比べればはるかにましですから。

欧米の良識に期待

イランは再び米国から強力な制裁を科されることになります。しかし、今のところ強硬な動きはなく、平静を保っていますね。米国が離脱した後の合意に残留する価値があるのでしょうか。

村上:イランと米国の間に通商関係はほとんどありません。このため、イランが恐れるのは米国の制裁により他の国との通商が阻まれる事態です。特に大きいのは米国の国防授権法がもたらす影響ですね。イランの金融機関と取引する第三国の銀行と米国の銀行とのドル決済を禁止するものです。国防授権法が2012年に施行された後、イランは非常に辛い目に遭いました。